星降る夜に、あの日のキスをもう一度



 昨日街に行っても勇者の話は届いていなかった。
 ざっと調べた限り、今この世界での一般的な情報伝達手段は伝書鳩のような鳥を使ったものや早馬、もしくは閃光弾のような光を使ったものらしい。通信魔法が使える特殊な魔術師がいるような場合はともかく、アンジェラが前世にいた日本のように一瞬で伝わるというわけにはいかないことが分かった。

 エドガーの話では、彼を召喚した魔術師の一人がゴルド家にある古い鏡を通して話をすることが出来るらしい。色々条件は限られているようだが、それならアンジェラからグレン経由でゴルド家に連絡を入れて、そこから魔術師に連絡を入れたほうが早いと踏んだ。

 エドガーが向かっていた城の位置はコースリアだという。アンジェラの前々世では地方の一領地に過ぎなかった土地だが、前勇者のリンや前々世のアンジェラにはゆかりのある土地だったので、大体の距離感が分かったことも大きい。
 うまくいけば二、三日で、エドガーの迎えが街に来るだろう。


「アン先生。どうやってお手紙を受け取ったんですか?」

 メロディが不思議そうに問いかけると、コンラッドもハッとしたように顔を上げた。先ほどまでとは違うその表情にアンジェラは、(やっぱり家や仕事のことが気がかりだったわよね)と頷く。コンラッドはかなりの仕事人間だと聞いていたから、内心かなり焦りがあるのではと思っていたのだ。

「手紙はね、矢につけて飛ばしたのよ」
「矢?」
「そう。昨日飛竜を倒すのに、私が弓矢を召喚したのを見たでしょう?」
「はい」
「あれは普段、ドランベルの自宅に保管してあるの」

 その言葉にメロディだけではなく、コンラッドまでもが「えっ?」と声を上げた。

「旦那様はあれを、ヒィズル人の使う破魔の器だと思ってらっしゃったようですけど、実は違います。わたくしはヒィズル人のように武器を身の内に納めておくことが出来ません。代わりに、決まった場所において、魔力で引き出しているのですよ」

 メロディはよく分からないまでも「へえ」と呟いたが、コンラッドの方は目を見開き、懸命に理解しようとしているのが見て取れる。

 しんと静まってしまった為、シドニーが小さく
「アンジェラ様の魔法の使い方は、独特かつ奇天烈でらっしゃいますね」
 とつぶやく声がやけに大きく響いて、アンジェラとエドガーが同時に吹き出してしまった。