星降る夜に、あの日のキスをもう一度

「たしかに、こんな非日常で言うことではないかもしれませんね」

 どこか面白そうな、コンラッドのゆったりした声に腹が立つ。アンジェラは頭の中にまで心臓の音がガンガン鳴り響いているというのに。

「コンラッド、性格が変わってませんか?」

 昨日から振り回されっぱなしなのが悔しい。けれど彼には結婚経験もあって、ほかにもたくさん恋愛経験があるだろう。そう考えれば、経験皆無のアンジェラなど赤子同然の存在なのかもしれない。
 おまけに彼を学生時代から知っているせいか、一緒にいるとなぜか自分が間もなく四十歳になる女ではなく、まだ十代のような気持ちになってしまう。それが新鮮でもあり、不安でもあり、ふわふわソワソワと落ち着かなかった。

「変わったというか、今必死なだけです。私の言葉に頬を染めてくれる貴女が可愛くて、頑張る甲斐はあるなと思ってますけれど」
「かっ⁉」

 その甘やかな視線に脳みそが溶けてしまう気がした。まともに考えられないのはきっとそのせいだ。

「だってね、アンジェラ。あとでとか、こうしたらなんて計画を立てるたびに、私は貴女に逃げられてきたんですよ?」
「別に逃げたことなんて……」

 だいたい自分が誰かに求婚されるなんて、夢にも思わなかったのだし。

「ええ。でも今回、無事帰れたら求婚しようなんて考えたら、――また貴女は消えてしまうと思った」

 何かに気づいたように目を見開き、低くなったコンラッドの声に硬直する。
 アンジェラは、一日でも早くコンラッドたちを元の世界に帰そうと考えていた。でもそこに自分は入っていなかったし、入れるつもりもなかった。そのことに気づかれてしまったのかと思った。
 気づかれたところで彼には関係のないことなのに。

「アンジェラは自分を嫁き遅れ(オールドミス)だと言いましたけど」
「はい」

 確かに昨日ポロッとバラしてしまった。時には未亡人のふりをすることだってあったのに、動揺しすぎて口が滑った。

「それはなぜ? 貴女なら縁談は降るように来たでしょう」

 何か怖がっているような固い彼の表情に苦笑した。婚約者がいたのかという問いに首を振り、スミレが早くに夫を亡くしたのは嘘だろうと言うコンラッドに首肯する。
 いまさら嘘をつく意味もない。

「そうですね。わたくしがドランベルの当主であるということで、寄ってきた男性はいたでしょうね」
「そういう意味ではないのですが」

 今初めてアンジェラ自身が当主という立場だと知ったらしいコンラッドは、一瞬戸惑ったような顔をした。

「いいえ。それ以上の意味で近づく方なんていませんでしたよ」

 それを考えると、彼はアンジェラの立場も容姿も、何も関係なく好いてくれたのだと気づき、再び頬に熱が上がりそうになるのを必死で誤魔化す。
 それでも彼が打ち明けてくれたように、自分も少しばかり本当のことを話そうかと思った。