星降る夜に、あの日のキスをもう一度


 どう考えてみても、他校の王子様が自分に一目惚れしていたなんてありえない。あるわけがない。どこの少女漫画ですか。

(いえ、これは夢かも。起きたつもりだったけれど、もしかしたら異世界に来たこと自体が夢かも知れないわ)

 本当は今日が家庭教師初日かも知れないと現実逃避を始めたアンジェラの髪を撫で、コンラッドがため息を吐いた。

「ねえ、アンジェラ。全然気づきませんでしたか? あの頃私は、貴女に仲のいい男が出来やしないか、常に冷や冷やしてました。会えるのが月一回程度なんて全然足りませんでしたよ。それに。ああ、アンジェラは使用人たちからも人気が高かったのはご存じない? シドニーなど、貴女が妻なら采配が上手だろうと言ってましたけど」
「存じません」

 次々出てくる想定外のコンラッドの言葉でシドニーの先ほどの発言が甦り、思わず頭を抱えたくなる。

(まさかと思うけど、さっき話していた奥様って、わたくしのことを言ってたわけじゃないわよね? ちがうわよね? うん。ありえないわ。さすがに自意識過剰すぎるわね)

 自分の中でそう結論付け、思い切ってコンラッドの目を見直す。
 周りを見渡せばここは彼がいるべき世界ではないのだ。こんな呑気な話をしている場合ではない。それでもコンラッドと視線が合うと走って逃げだしたくなった。
 
「コンラッド。今は、そんなことを言っている場合じゃ、ないでしょう?」

 何でもない普通の声を出したかったのに、か細い声しか出なかったのが悔しくてアンジェラは唇をかんだ。
 動揺を打ち消すように心の引き出しを開けまくり、ふと、十代の頃の初めてのキスを思い出した。
 太陽神の優しいキスと、彼の優しい眼差し。
 それは何度も自分の心を救ってくれたキラキラの思い出で、アンジェラにとってはお守りだった。もしまた生まれ変わっても、唯一持っていけたらいいと思っている幸せな時間。

 その思い出に少しだけ落ち着きを取り戻し、そっとコンラッドの胸を押しやり、ようやく彼から一歩離れた。