星降る夜に、あの日のキスをもう一度

「まあ、父親があの方なら気持ちも分かりますけどね。そこら辺の女に、お父さんをとられたくない、みたいな?」
 とは、グレンの妻であるサムの言。

 アンジェラも、メロディの父親の若かりし日の姿を思い浮かべて苦笑した。

 アンジェラとコンラッドは同い年だ。
 学園こそ違うが、学生時代、交流行事の関係で何度か顔を合わせたことがあった。
 当時でもその美貌には絶大な人気があったけれど、対応が冷たいことでも有名で、とっつきにくい男子だったことを覚えている。

 メロディの母親が早くに亡くなった後、後添えの話が山のように来ていたであろうことは想像に難くない。しかし彼がいまだに独身であることを考えれば、娘が再婚に反対なのか、本人にその気がないのだろう。

 ナタリーは夫と兄以外の男は「かかし」にしか見えないタイプのため、メロディから気に入られているようだ。本来住み込みが主流の家庭教師なのに通いであることも、結婚後も続けていることもその為だった。
 それでも、ようやく念願の懐妊。
 予想以上につわりは重く、とても家庭教師を続けることなどできない。

「出産ギリギリまで面倒見るって約束したんだけど」

 そう言って眉を下げるナタリーだったが、こればかりは仕方がないことだ。
 自分の中に別の命があり、どんなに具合が悪くても病気ではないから治せる薬もない。

 アンジェラに出産の経験はないが、妊娠や出産で命を落とす女性や子供を何人も見聞きしてきた。それだけに喜びと恐怖は常に表裏一体であるため、今はとにかく娘の体を休ませ、元気な子を無事産めるよう補助するのが家族の役目だと心得ている。
 とはいえ――

「男の方を令嬢の家庭教師にはできないし、女の方だと、まあ未婚既婚に限らず、たいてい旦那様に色目を使うから、代理を見つけるのが難しいのよ」

 そう言ってため息をつくナタリーに、思わず吹き出しそうになったのをばれないようにするため、ひたすら真面目な顔を作るのが大変だった。

(どれだけフェロモンを駄々洩れにしてるのかしら?)

 すでにギャグとしか思えないコンラッドの色気話は、娘以外からも噂で色々聞いている。ここまでくると、大人の色気が加わったコンラッドを一目見てみたいとさえ思ってしまうくらいだ。アンジェラの中のコンラッドは、今も十八歳の姿で止まったままだから。

「そりゃあ、わたくしが彼に色目を使うことはないけれど、メロディ嬢はそうは思わないんじゃないかしら。結婚に興味はなくても、世間的にはわたくしも一応独身女性なのよ? それとも四十歳なら眼中にないかしら」

 子どもは育てたが、結婚したことは一度もない。
 学生時代には地味で目立たなかったアンジェラだから、違う学園だったコンラッドが覚えているはずがないのは幸いだけど、メロディが知ったら独身というだけでも「危険分子」だと判断するのではないだろうか。

「どう思う? サム」

 ナタリーは大丈夫だというけれど、娘婿に意見を求めてみれば、彼も「同感です」とアンジェラに同意した。

「素のお義母(かあ)様ですと、元々少し童が……いえ、実年齢よりもお若く見えますし、ナタリーと姉妹にしか見えませんものね」

 童顔は気にしているので、軽くサムを睨むふりをしてアンジェラは肩をすくめる。

「実際、十二歳しか離れてないしね」

 親子というには無理のある年齢差なのだ。
 ナタリーが自分の代理に母親をと伝えてあるなら、それ相応の姿が無難だろう。メロディは娘が大事に教えてきた生徒なのだ。

「わかったわ」
「ありがとう、ママ!」
「じゃあ、いっそ六十歳くらいに見せていきましょうか」
「えっ?」