星降る夜に、あの日のキスをもう一度



「家族になるために大切なのは、縁や愛情、そして思いやる気持ちじゃないかと。私はメロディにそれを感じたんです。男の子か女の子かもわからなかったけれど、どちらでもよかった。生まれてくる子を守らなきゃいけないと。この手に抱き、貴女がキリやナズナにしたように笑わせてやりたいと、使命にも似たものを感じました」

(あの頃はスミレを抱いたものと信じていたから、もしかしたら、生まれていたかもしれない子供をメロディに重ねたのかもしれない。そう考えると、私も相当病んでいたんだろうな)

 だからだろうか。コンラッドは、愛する人が消えて傷ついているソニアのことも慰めたいと思った。

「政略結婚であっても家族になれたらと、本当にそう思っていました」

 自分の愛する女性も、突然どこか遠くに消えてしまったのだと彼女に打ち明けた。
 恋をすることはなくても、家族になることはできるのではないかと話し、やがてソニアも落ち着きを見せた。

 彼女が結婚に同意したあとしばらくは、このままうまくいくのではないかと思う時期があった。
 普通の新婚夫婦のように甘くはないけれど、それでも穏やかな日々が続いた。
 結婚の少し前からソニアも徐々に笑顔を見せはじめ、それなりに温かい家庭だったと思う。
 メロディが生まれるとコンラッドは可能な限り仕事を最小限に抑え、世話好きのめんどりのように子供につきっきりで世話をした。
 メロディにミルクをやり、おむつを替え、夜泣きをしたときに抱っこもした。
 妻と一緒に子供の成長を見守っていると思っていた。

「でもソニアは結局、ずっといなくなった男しか見ていませんでした」

 出産から一年も経った頃だっただろうか。時々ソニアは、コンラッドのことを違う名前で呼ぶようになった。メロディにきつくあたっているところに出くわし、慌てて引き離したこともある。
 彼女が八年前に肺炎で亡くなった時、最期に呼び続けたのもその男の名前だった。
 結局彼女に見えていたのは、違う未来にいたはずの自分の世界だけだったのだろう。
 メロディもコンラッドも、彼女にとっては透明人間でしかなかったのだ。

「今も、あれ以上何が出来たのか分からないままです。それでも去った男を思い続けるソニアの気持ちが、困ったことに理解できるんですよ。私たちは似た者同士だったのかもしれません」


 本当はここまで打ち明けるつもりはなかった。
 愛する女性に、ほかの女の話などしたいわけがない。
 ましてや心から結婚したかった――いや、今も結婚したいと思っている相手に、妻だった女の話など聞かせたくなかった。

 けれど、先ほどメロディから母親(ソニア)のことを打ち明けたと聞かされたコンラッドは、アンジェラにはもう、何も隠してはいけないような気がした。
 彼女と結婚したければ、自分だけではなくメロディも受け入れてもらわなければならないのだ。

 アンジェラには聞きたいことも知りたいことも山ほどある。
 たくさん話をしたいと思う。

 けれどそのためにはまず、自分をさらけ出さなければならないと思った。