星降る夜に、あの日のキスをもう一度

 ヒィズルでアンジェラが素性を明かすことはなかったけれど、それはコンラッドも同じだったことに今更気づく。暁の狼として紹介された彼は、イリアではなくルランから来たと言っていたし、側にいても隣国だから似ている点があるのだろうくらいで気にしたことがなかった。

「メロディの祖父は父の恩人でした。あの子の母親との縁談が来たときは、結婚はすでに決定事項だったんです。恩人の娘の窮地を救えと。まあ、そういう名目の政略結婚ですね」

 だが相手は、すでに他の男の子どもを妊娠していた十八歳の少女。
 子供の父親は名前さえ嘘だったらしく、今もどこにいるか分からないのだという。

 当時の輝くようなソニアの姿を思い浮かべ、アンジェラは胸が痛んだ。
 愛した人に裏切られたのは、どんなに辛かっただろう。メロディにあたったことは決して許せることではないけれど、それでもその点には同情した。

「アンジェラ。正直に言いますと、私は二年、スミレを探しました。ヒィズルにいるものと考えていたから、そちらの伝手を使って。まさか破魔の器を召還できる貴女がヒィズル人ではないなんて夢にも思わなかったんです」

 破魔の器は、アンジェラが使っている弓矢や剣のことだ。
 ヒィズルでは大地と火の山に契約することで、魔獣を倒せる武器を自分の身の内に納め、召喚できるようになる力を得ることが出来る。さらにその武器に魔力を込めることが出来る戦士を、魔法剣士や魔法弓士と呼び、スミレは魔法弓士だった。

(でも厳密には、武器を身の内に納めることはできないから、それっぽく見せていただけに過ぎないのだけど)

 破魔の器は人を傷つけることはできないけれど、アンジェラのそれはコンラッドが使っているような普通の武器のためどちらにも使えるのだ。
 その差を見せたことも教えたこともないので、はたから見ればスミレは少し外国風の風貌なだけの完全なヒィズル人だっただろう。
 実際には魔力の使い方の応用で、家に置いているものを取り出しているに過ぎない。前世アニメで見た、どこかにおいてあるアイテムを取り出せる道具をイメージしたと言ったところで、誰も理解できなかっただろう。

 自分のことを、そんなにも長い間探してくれていた。その事実に震える胸が、何を意味するのかよく分からない。
 何も言えず微かに目を伏せるアンジェラに、コンラッドは寂しげに笑った。

「でも私の結婚が決まってしまったとき、無理やりにでも貴女への気持ちを殺せたのはメロディがほしかったからです」

「メロディを?」

 胸の奥が握りしめられたように痛むのを無視し、面には不思議そうな表情だけを作ると、コンラッドは当時を思い出すように上を向いた。