星降る夜に、あの日のキスをもう一度


「どのあたりに向かうつもりですか?」

 コンラッドの問いに「少し道を外れて、西のほうを見たいと思ってます」と答える。
 昨日は街に向かって森の細い道をまっすぐ進んだのだが、帰りに西のほうに水の気配を感じたので確認したかったのだ。いくらコンラッドが水呼びが得意でも、天然の水を確保できるならそのほうがいい。ここに長い期間いるつもりはないけれど、それでも水は重要だから。

 散歩にしては野性的な道中ではあったけれど、彼の態度はアンジェラを気遣う以外は普通で、まるで以前から親しい友人だったかのように錯覚しそうになる。とはいえ、学生時代のコンラッドとも暁の狼とも少し違うその細やかな感じは、一緒にいてとても心地のいいものだった。

 しかし――

「メロディが私の子でないことは、最初から知ってますよ」

 西に少し進んだところに美しい泉を見つけ、あとで子どもたちを連れてこようと考えているとき、突然コンラッドがそんなことを言うので驚いた。

(わたくしとしたことが、考えてることが顔に出てた?)

 思わず頬に手をあてるアンジェラに、コンラッドが柔らかく目を細める。

「さっきメロディから、貴女にそのことを打ち明けたと聞きました」
「そう、ですか」

 ちらりとコンラッドを見上げれば、彼が何か話したい様子であることを感じ、アンジェラは雑念を払って聞く態勢を整えた。
 本来首を突っ込むべきではない私的な家庭事情ではあるけれど、二人きりにされたのはメロディか家のことで何か話があるからなのかもしれない。

「メロディはいい子ですね」

 今はまだ幼さのほうが全面に出ているけれど、今後もきちんと教育をすれば素晴らしい令嬢になるだろう。外見も美しいけれど心も強い、そんな女性になる。

 アンジェラの確信のこもった言葉にコンラッドは優しく目を細めた。その目には自分の娘を褒められたことへの誇らしさが浮かんでおり、彼は素直に「ありがとう」と言った。

「あの子が落ち着いたのはナタリー先生のおかげです。素晴らしい先生だ」

「ありがとう存じます」

 アンジェラの方も娘を褒められて微笑んだ。

 「あのナズナが」とコンラッドは感慨深げだが、狼と出会った頃のナタリーは十一歳。別れた頃は十三歳だった。
 今のメロディと同じ年頃だ。
 多少面影はあっても、今やすっかりイリア人として振舞うナタリーを、あの時の子供だと気づくことはできなかっただろう。