星降る夜に、あの日のキスをもう一度


 打てば響く彼の返事に、思わず緩みそうになった口元を手で隠す。
 彼はスミレを愛していたかもしれないけれど、アンジェラはアンジェラとして、決して無かった存在ではなかったのだ。
 その意外な事実に優しい思い出が増えたことを感じ、温かいものが胸の奥からあふれてくる。あの頃コンラッドと友達になれたら、また何かが違っていたかもしれない。

(やっぱり今世は、すごく幸せな人生だったわ)

 アンジェラは学生時代が一番楽しかった。
 心の奥に棘が刺さっていても、それでも一番キラキラしていた。
 前世で日本人だった頃も学校生活はあったけれど、入院生活のほうが長くて孤独だったから、憧れの学園生活を本当に無我夢中で過ごした。たった二年だったけれど、たくさんの思い出を作った。

 一番輝いている思い出は、今も心の支えになっている、どこの誰だか分からない太陽神だけど。それが今、仲良くなりたかったと言ってくれた隣に座る男性に一瞬彼が重なり、(まさか)と首を振る。
 アンジェラにとっては、すべての人生を通しても唯一と言えるくらい貴重な思い出の彼が、コンラッドであるわけがない。

「ありがとう。嬉しいです」

 アンジェラが素直に礼を述べればコンラッドは一瞬目を見開き、覆いかぶさるように顔を寄せてきたので再び手で押さえる。

「キスはしませんよ」

 上目遣いで睨むアンジェラにコンラッドは目元を緩ませる。そしてアンジェラの手のひらに唇を押し当てると、「ちぇっ」と子供のような顔をして離れた。

(「ちぇっ」ってなんですか。もう!)  

 なんだか振り回されているようで悔しいと思い、手のひらをぎゅっと握りしめる。

「あまり、こんな悪ふざけはしないでください」

 自分でも驚くほど弱々しくなったアンジェラの声に、コンラッドはハッとしたような顔をして「ごめん」と頭を下げた。

「ふざけてるわけでも、からかったわけでもないんだけど。いや、十分貴女を困らせましたね。せっかく血色が戻ったと思ったに、また顔色が悪い。今日二度も倒れたのに無理をさせすぎてしまったようだ。すみません、もう休みましょう」

「ええ」

 立ち上がるのに手を差し出すコンラッドに、少しだけためらってから自分の手を預ける。

「アンジェラ、また明日」

 日付は変わってしまったからおかしいかなと言う彼に、アンジェラも「また明日」と返事をする。
 それだけでとても嬉しそうな顔を見せたコンラッドに、アンジェラはまた少しだけ落ち着かなくなった。