星降る夜に、あの日のキスをもう一度


「アンジェラ。二人きりの時に、旦那様はやめませんか」

 コンラッドの提案に反射的に反論をしようとして、彼の寂しそうな目に一瞬口をつぐむ。

「でもわたくしは、メロディの家庭教師代理ですから」

「業務時間外ですよ。今は昔なじみの友人でいて下さい。学生時代のように」

 学生時代の言葉に少しだけ笑みがこぼれる。

「あの頃はコンラッドと、友人と言えるほど話したことはなかったですけどね」

「えっ? そ、そうでしたか?」

「そうでしたよ。わたくしとも、ほとんど目も合わせて下さいませんでしたでしょう? 当時の貴方は冷たくて近寄りがたい存在でしたわ」

「そんなに冷たかったですか?」

「大丈夫。そこが素敵とも言われてましたから」

「全然フォローになってません」

 コンラッドは心底驚いたような顔をしたあと、なぜか落ち込んだような顔をしてしまう。昔とは違う表情の豊かさが好ましかった。

「コンラッド?」

 額に手をあて俯いてしまったコンラッドの顔を下からのぞき込むと、彼は小さくため息をこぼして苦笑した。

「ちなみに、その。アンジェラが当時私を、どう思っていたのか聞いてもいいですか?」

「みんなコンラッドのことを、カレイドの絶対零度の王子様って呼んでましたよ。ちなみにヴィクトリアは女王様です」

(メロディに学生時代のことを教えてあげたら喜ぶかしら?)

「なんだか微妙に納得がいくような解せないような気もしますけど、貴女もそう思ってたんですか?」

「わたくしがですか? そうですね。ヴィクトリアは普通に友だちですから、女王様という表現は面白かったくらいですし。――ああ、コンラッドのこと……。ええと、友だちの友だち?」

 まじめに当時を思い出しながら正直に答えたものの、なぜか「遠い」と不思議なつぶやきが聞こえてアンジェラは首をかしげる。何が遠いのだろう?

 あまりにもしょんぼりしてしまったコンラッドに、何かフォローしなくてはいけないような謎の使命感がわいてくる。ヴィクトリアがよく彼をからかっていた理由が分かったような気がしたものの、どうすれば彼が元気になるのかはよく分からなかった。

「あの頃は、すごく緊張してたんです」

 ぼそっと呟かれた低い声に、アンジェラは目が丸くなる。

「優秀で、なんでもできる貴方が緊張?」

 一番似合わない言葉のように思えるのだけれど。

「ええ、緊張してました。おかしいですか? シドニーに言わせると、当時の私は見掛け倒しのエセ王子らしいですよ。あの頃は貴女の名前を呼ぶのだって、本当にいっぱいいっぱいだったんです」

 ふてくされたようなコンラッドの顔を見つめ、アンジェラは何度も瞬きをする。

(今日は驚くことばかりだわ)

 無敵の冷たい王子様に見えていた当時のコンラッドは、裏を返せば緊張しやすい普通の男の子だった?

「ええと。今日、コンラッドがわたくしを覚えていてくれたことにとても驚いていたんですけど。もしかしてあの頃、わたくしと友達になりたいと思ってくださってました?」

「もちろん仲良くなりたかったですよ」

「そう、なんですね」