星降る夜に、あの日のキスをもう一度

 エドガーが寝室に向かい広いリビングで一人になると、アンジェラは座ったまま両手で顔を覆って深く息を吐いた。

(長い一日だった)

 朝ウィング家に向かうとき、まさかこんな一日になるとは思わなかった。
 あまりにも色々なことがありすぎて、体中をいくつもの何かが駆け巡っているような感じがする。

「疲れましたか?」

 低く響く声にハッと顔を上げると、いつの間にかコンラッドが入り口に立っていた。その手には湯気の立つカップが二つ載ったトレーがあり、彼は静かに歩いてくるとアンジェラの座るソファ近くの小さなテーブルにそれを置いた。

「すみません、旦那様。少し休んだら声をかけようと思ったんですけど」

「ああ、座ったままで。――やっぱり顔色が悪いですね」

 隣に座ってアンジェラの頬を両手で包むと、コンラッドはその冷たさに驚いたような顔をした。逆にアンジェラはコンラッドの手の温かさにホッとし、その手に軽く手を添えて軽く目を閉じる。
 今のコンラッドの目に先ほどまでのような熱はなく、ただアンジェラを心配し気遣っていることが感じられた。

「何を持って来てくださったんですか?」

「白湯です。遅い時間なので茶を飲むと眠れなくなると思って」

 コンラッドにカップを手渡され、アンジェラは礼を言って一口飲んだ。

「ありがとうございます。少し楽になる気がします」

 ただの白湯だが飲みやすい温度で口当たりが優しく、疲れているためか少しだけ甘く感じる。

「それはよかった。ここには酒を置いてませんしね」

「わたくしはお酒は飲まないんですよ」

 いざというとき動けないと困るから。

 その言葉は飲み込んだけれど、コンラッドもカップを口にして、何か考え込むような顔になる。
 狼はヒィズルの地酒を好んでいたことを思いだし、でも藪蛇になりそうだからそれも口に出さないでおく。沈黙が続いたけれど、学生時代を考えればコンラッドと二人でいておしゃべりをするなんてこともなかったのだ。今もこの沈黙は苦痛ではなかったし、体温さえ感じそうな距離なのに少しだけとろりと眠くなった。