星降る夜に、あの日のキスをもう一度

 魔王と言われると、アンジェラにとっては前前前世のランプの魔人が思い浮かぶせいで、どうも印象がぶれてしまう。魔王退治に武者修行と聞いて、思わず面白がってしまったのはきっとそのせいだ。

「魔王、ねぇ」

 だいたい当時はそんな呼び名ではなかったのだ。敵は、魔獣を操る男。(とき)色の魔術師と呼ばれていた。

「鴇色?」
「そう。髪の色が、可愛いピンク色だったのよ」

 黄色みがかった優しいピンクの髪。目は茶色。穏やかともいえる風貌だった。でも彼は死んだ――。

「封印なんてしていないもの。彼は死んだわ。本当に復活したというのなら、私のような存在かも知れないわね」

「なるほど。そうかもしれませんね」

 そう言いながら、エドガーはアンジェラには何も言わない。優しい子だ。


 この世界で生きた前々世のアンジェラは、後に聖女と呼ばれているようだと街で知った。
 <再生の力>
 それが、シェダイで生きていたアンジェラが持っていた能力だ。

 治癒ではない。生きているものであれば、その生命力を糧に元通りにすることが出来る奇跡の力。
 お綺麗な聖女様は、傷ついた勇者一行を癒す存在として伝わっていることに乾いた笑いが出る。実際は勇者と共に戦う戦士でもあったのに。

 前々世のアンジェラに母親の記憶はない。
 父親はいつも何か怒鳴っている人だった。母が生きていたころは知らないが、アンジェラの知る限り、いつも賭け事や酒におぼれていた。
 十四歳の時。金を払えなかった父はアンジェラを売った。
 その前の人生の最期は、ランプを狙った男たちに嬲《なぶ》り殺されたことを覚えていたから、自分もここで死ぬのだと半分諦めていた。助けてくれたのがリンだ。

『よう、おっさん。俺と賭けをしようよ。俺が勝ったらその女をくれ』