星降る夜に、あの日のキスをもう一度



「旦那様は目立ってしまうみたいですね」

 人気のないところで立ち止まると、アンジェラはホッと息をついた。小さな子供でもあるまいし、おちおち目も離せないとは。

「そうですか?」

 人の気も知らないで、どこか機嫌がよさそうなコンラッドは、目をきらめかせてアンジェラを見下ろす。あまり意識はしてなかったけれど、やっぱり傍から見ると彼はフェロモンがすごいのだろうか?
 一歩離れて上から下まで見て、アンジェラは今度こそ盛大にため息をついた。

「四十とはいえ、これだけいい男なんですもの。目立つに決まってますわ。失敗した、全然考えてなかった」

 後半は早口に小声だったせいか、彼は「いい男」の部分に面白そうな顔をする。

「貴女もそう思ってくれるんですか?」

「失礼ですね。わたくしだって人並みの審美眼くらい持ち合わせてますから」

「……そう、ですか」

 なぜがっかりしてるんですか。

「顔の印象も少し変えてみますか?」

 そう提案すると、コンラッドは「少しなら自分でできます」と言って、さっそく詠唱をする。なぜかこちらを窺うような目に戸惑ったものの、変えられた顔に腰が抜けそうになった。

「黒い髪も目立ちますから、こっちのほうがいいでしょう?」

 イタズラを成功させたような彼の髪は金色に染まっている。綺麗に撫でつけていた髪をクシャっと崩せば野性的に変えられた目にかかり、先ほどまでとは違った色気を漂わせていた。

 本来ならば(逆効果です)と言いたいところだが、アンジェラは呆然としてしばらく瞬きはおろか呼吸も忘れた。
 心の準備が追い付かず、知らんぷりもできないアンジェラを見て、コンラッドは満足そうにうなずいた。

「スミレ、久しぶりだね」

「暁の、狼……?」

 最後に別れてから十五年は経っている。でもこの顔、この声、そして彼は間違いなく自分のもう一つの名前を呼んだ。

「いつから気付いてらっしゃったんですか」

 じりっと後退するアンジェラの腕をコンラッドが掴む。

「今朝、門扉をくぐった貴女を見て、スミレだと思いました。幻視の魔法を解いた姿は、あの日のままの貴女だった。日焼けはしてませんでしたけどね。しかもそれがアンジェラ、貴女だったことに私も驚いているんですよ」

 コンラッドの手が頬に添えられ、目をのぞき込まれる。彼の目の奥に見えるのは混乱? それとも――。

「聞きたいことは山のようにある」

 切羽詰まったような目の色は、月夜のような深い青。

「アンジェラ、いや、スミレ。――あの時子供は出来なかった?」