星降る夜に、あの日のキスをもう一度


「気持ち、悪い……」

 耐え切れず呻くとすぐに木の陰で背中をさすってくれた。
 ずっと名前を呼び励ましてくれるコンラッドの声が遠い。遠くて懐かしくて、よけいに混乱が深まっていく。渦巻く記憶が絡み合って、どれが誰のものか分からなくなる。
(助けて。誰か)

「遠慮せずに吐いてしまいなさい」

 えずくだけで苦しむアンジェラの口に、コンラッドが指を入れて強制的に吐かせる。何度も吐き続けて落ち着くと、ぐったりするアンジェラを抱き上げたコンラッドは少し離れたところに座り、アンジェラを膝に乗せたまま口を漱がせ、水を飲ませてくれた。それはとても献身的で、そしてあまりにも親密で戸惑うものの、あらがう力もなく彼の肩に頭を預けて目をつむる。
 無言のまま髪を撫でてくれる手が優しくて涙がこぼれた。
 どうしてこんな風に優しくしてくれるのか全く分からない。振り払わなければと思うのに、どうしても動けない。

(やっぱりわたくしは、土下座をしなければならないわ……)

 娘の雇い主は素晴らしい人だと思うけれど、それだけではない気がする。昔の知り合いだから――? 覚えていてくれていたことさえ不思議なくらいなのに。

 離れようと力なく肩を押したものの、逆に抱きしめられた。

「頼む。もう逃げないでください。もう嫌なんだ」

 震える声は誰のことを言っているのだろう?
 あまりにも頼りなくて悲しそうで、思わず抱き寄せてしまいたくなる。すでに命綱であるかのように、きつく苦しいほど抱きしめられているのに。
 コンラッドも何か傷ついているのだろうか……。

 先ほど冗談だと言ったメロディの顔が浮かぶ。
 あれはきっと真実だと、少なくともあの子の耳にそう思わせるよう吹き込んだ誰かがいるのは確実だと思った。
 二人を傷つけたのは誰なのだろう。

(でも少なくとも今は――。遭わなくてもいい事態に遭わせたのはわたくしのせいだ)

 この世界はかつてアンジェラが違う人生を歩んでいた世界――森の王国シェダイで間違いないのだから。