星降る夜に、あの日のキスをもう一度

「ギッ!」

 眉間に矢が吸い込まれるよう命中し、一瞬だけ上昇した飛竜が館を超えて墜落したのを確認する。走って館内に戻ってドアを閉め、反対側の窓を開け放ち飛び出しながら手の中の弓を短剣に変じさせ、アンジェラは一息に飛竜にとどめを刺した。

「少年、こいつの血は他の怪物を呼ぶか?」

 早口に先ほどの男に呼び掛けると、アンジェラ同様窓の外に飛び出した彼が「呼びません!」と叫び返し、館と飛竜を含めた広範囲に防御膜を張り巡らせる。それは随分強固なもので、アンジェラは感心すると同時に目をすがめ、今助けた男――否、少年の正体を探ろうとした。

 予想通りまだ若い。せいぜい十五・六。金色の髪も目の色も明るめ。

(え? まさか)

 そのよく見知った容姿に、会うのが久々にもかかわらず、アンジェラにはそれが誰だかわかった。

 同時に少年もアンジェラを見つめ、一瞬目を丸くした後ニヤッと笑う。

「お年を召した女性にしては、ずいぶん機敏ですね。またそんな老けた格好をしてるんですか、アン先生?」

 面白そうにしている彼の目に映る姿は、白髪の髪を振り乱した老女の姿だ。それでも後ろにいる父子に気づいたのだろう。少し近づくと、アンジェラにだけ聞こえるように声を抑える。

「魔法石を持ってないなら幻視を解いたほうがいいですよ。ここでは無駄に力を消耗するだけです」

 実際、思いのほかそれを実感していたのでアンジェラは素直に頷き、ひらりと家の窓を飛び越えて室内に戻った。飛竜は絶命し、仲間や他の怪物を呼ぶ心配がないなら、始末は後にして少しでいいから休みたかった。

「これはいったい?」

 言葉少なに警戒の色を隠さないコンラッドに、アンジェラは軽く肩をすくめ、メロディを探す。
 コンラッドの警戒はもっともだ。
 突然見知らぬ風景が見えたかと思ったら、今度は初対面の女がどこの誰かも分からない男を家に入れた。
 人命救助とはいえ、場合によっては凄惨な結果になってもおかしくないのだ。

 アンジェラは経験と直感から必要だと思ったことをしたまでだが、彼に分かるはずがない。ましてや娘や使用人など、守らなければならないものが多くある立場だ。

「驚かせてしまい申し訳ございません、旦那様」
 と、深く頭を下げる。
「パパ! 先生は人助けをしたのよ! そんな顔をしないで頂戴、失礼だわ」