「魔法で服まで変える人を始めて見ました」
暗い森を抜ける道中、コンラッドがそんなことをポツリとこぼした。
幻視の魔法は基本身体を違った風に見せるためのもので、年を変えたり体型や顔の印象を変えてみせたりするものだ。無機物である服に応用することも可能には可能だが、膨大な魔力や精神力、それに加え明確なイメージ力がいるため、ほぼ眉唾物だとされている。
「知らないところで目立つ危険はおかせませんから。街の様子を見て、改めて変えるつもりです」
アンジェラは旅装束に見せた上、腰に短剣を、背中には弓を携えている。もちろん同行者のコンラッドにも帯剣してもらっている。
(今朝老婦人姿にしていたおかげで、歩きやすい靴にしてたから助かったわ)
見た目を変えていても中身は同じ。華奢で上品な靴にしなくてよかったとしみじみ思う。
「人は異質なものに敏感です。特にこの世界では魔王とかいう存在にピリピリしている可能性が高い。街では情報収集と、できれば買い物もしたいです。でももし万が一のことがあれば、旦那様はすぐに館に戻ってください。何かしようとは絶対考えないで」
「それは、貴女に危害が及ぶことがあってもという意味ですか?」
怪訝そうなコンラッドにアンジェラは当然と頷く。
「旦那様が守るべきなのは、メロディと使用人の方たち、すなわち貴方の家族です。エドガーのことも、昔なじみの息子ということで宜しくお願いしますわ」
一瞬、コンラッドらしくもない唖然とした顔を見てアンジェラは首を傾げる。
(状況的にも優先順位的にも、何もおかしなことは言っていないわよね? ――ああ!)
「さっきわたくしが倒れたから心配してくださってるんですか? 大丈夫ですよ。飛竜の核をエドガーが魔法石に変えて持たせてくれましたから、もう倒れません」
胸を張って言うと、何故か今度はガックリうなだれている。今のコンラッドは意外と表情豊かなようだ。
昔は稀にアンジェラと話すことがあっても、まともに目も合わせてくれなかったのに――。そんなことを思い出すと少し可笑しい。
「魔法石なんて、そんな簡単に作れないでしょう」
「エドガーは優秀ですから」
そういう問題じゃないと言われた気がするが、事実でしかない。
アンジェラたちの持つ魔力は心からの影響を強く受ける。
あらゆる知識を応用できる。そんなアンジェラに匹敵できるだけの力を持つエドガーは、アンジェラよりも魔力が高い。彼も前世の記憶持ちでは? と思うくらいには、飲み込みも早く判断力も高いのだ。アンジェラがこうしてくれれば核から魔法石を作れると言っただけで、あっさり実践してくれた。
その素直な資質とこの世界のせいだろうか。アンジェラの既視感はますます強くなる。もしくはエドガーの金色の髪のせいだろうか。
そしてようやく森を抜けて街を見下ろせる場所に来たとき、それが気のせいではないことに気づき、膝を付きたくなった。一瞬全身に震えが走り、足を踏み出すことが出来なくなる。
もしやと思わなかったと言えば嘘になる。
眼下に見えた色合いに、記憶を刺激されなかったかと言われれば否定できない。
「アンジェラ? 疲れましたか?」
実際にふらついてはいなかったはずだが、支えるように手を取ってくれたコンラッドに思わず縋り付きたくなった。頭の奥が揺れる。
暗い森を抜ける道中、コンラッドがそんなことをポツリとこぼした。
幻視の魔法は基本身体を違った風に見せるためのもので、年を変えたり体型や顔の印象を変えてみせたりするものだ。無機物である服に応用することも可能には可能だが、膨大な魔力や精神力、それに加え明確なイメージ力がいるため、ほぼ眉唾物だとされている。
「知らないところで目立つ危険はおかせませんから。街の様子を見て、改めて変えるつもりです」
アンジェラは旅装束に見せた上、腰に短剣を、背中には弓を携えている。もちろん同行者のコンラッドにも帯剣してもらっている。
(今朝老婦人姿にしていたおかげで、歩きやすい靴にしてたから助かったわ)
見た目を変えていても中身は同じ。華奢で上品な靴にしなくてよかったとしみじみ思う。
「人は異質なものに敏感です。特にこの世界では魔王とかいう存在にピリピリしている可能性が高い。街では情報収集と、できれば買い物もしたいです。でももし万が一のことがあれば、旦那様はすぐに館に戻ってください。何かしようとは絶対考えないで」
「それは、貴女に危害が及ぶことがあってもという意味ですか?」
怪訝そうなコンラッドにアンジェラは当然と頷く。
「旦那様が守るべきなのは、メロディと使用人の方たち、すなわち貴方の家族です。エドガーのことも、昔なじみの息子ということで宜しくお願いしますわ」
一瞬、コンラッドらしくもない唖然とした顔を見てアンジェラは首を傾げる。
(状況的にも優先順位的にも、何もおかしなことは言っていないわよね? ――ああ!)
「さっきわたくしが倒れたから心配してくださってるんですか? 大丈夫ですよ。飛竜の核をエドガーが魔法石に変えて持たせてくれましたから、もう倒れません」
胸を張って言うと、何故か今度はガックリうなだれている。今のコンラッドは意外と表情豊かなようだ。
昔は稀にアンジェラと話すことがあっても、まともに目も合わせてくれなかったのに――。そんなことを思い出すと少し可笑しい。
「魔法石なんて、そんな簡単に作れないでしょう」
「エドガーは優秀ですから」
そういう問題じゃないと言われた気がするが、事実でしかない。
アンジェラたちの持つ魔力は心からの影響を強く受ける。
あらゆる知識を応用できる。そんなアンジェラに匹敵できるだけの力を持つエドガーは、アンジェラよりも魔力が高い。彼も前世の記憶持ちでは? と思うくらいには、飲み込みも早く判断力も高いのだ。アンジェラがこうしてくれれば核から魔法石を作れると言っただけで、あっさり実践してくれた。
その素直な資質とこの世界のせいだろうか。アンジェラの既視感はますます強くなる。もしくはエドガーの金色の髪のせいだろうか。
そしてようやく森を抜けて街を見下ろせる場所に来たとき、それが気のせいではないことに気づき、膝を付きたくなった。一瞬全身に震えが走り、足を踏み出すことが出来なくなる。
もしやと思わなかったと言えば嘘になる。
眼下に見えた色合いに、記憶を刺激されなかったかと言われれば否定できない。
「アンジェラ? 疲れましたか?」
実際にふらついてはいなかったはずだが、支えるように手を取ってくれたコンラッドに思わず縋り付きたくなった。頭の奥が揺れる。



