星降る夜に、あの日のキスをもう一度



 意識が戻った時、コンラッドは自宅の寝室にいた。
 様子を見に来たヤマブキが、「三日も意識がなかったんですよ」とほっとしたように教えてくれる。

「スミレは……」

 助けに来てくれたのは、あの洞窟でのことは、すべて夢だったのだろうか。

「スミレは貴方を連れ帰った後、故郷(くに)に帰りました」

「なにっ!」

「なんでも、スミレたちを勘当していたご当主であるおじいさんが危篤だそうで、一刻の猶予もなかったんです。貴方のことをとても気にしてらっしゃいましたよ。何しろ死んだようにぐったりしてましたからね」

故郷(くに)はどこなんだ」

「さあ。慌ただしく出ていきましたし、たぶん誰も聞いたことがないと思います。ヒィズルの北か南かもさっぱり。落ち着いたら便りでもくれるといいんですけど」

 しかしその後、コンラッドがヒィズルにいる間にスミレの消息を聞くことはないまま、自分も国に帰ることになった。

 二十八歳の時にワケアリの女性との縁談(だがほぼ決定)が来て、そのまま結婚した。
 もう、彼女には会えないと思っていた。

   ◆

 そして今。
 思いもかけない事故で異世界に飛ばされ、スミレ、いや、アンジェラ先生が助けたのはヴィクトリアの息子だ。自信に満ちた強気な目が母親によく似ている。

 しかも幻視の魔法を解いたアンジェラ先生の姿は、あの頃のスミレであり、同時にコンラッドの初恋の人であるアンジェラだった。二人が同じ人物だったなんて、誰が想像できただろう。
 そうなると、娘の家庭教師のナタリーはナズナなのか。

 突然洪水のようになだれ込んできた情報に、コンラッドの感情が追い付かないでいた。

 メロディに、きれいに割った鱗を加工する方法を教える彼女の姿をさりげなく見つめる。エドガーも誘われ、一緒に加工するのを見つめる姿にくらくらした。
 これは懐かしさなのか、それともショックなのか。

 そこにメイドのライラが相談があると耳打ちしてきた。
 この館はあくまで娘のための別館であり、食料は茶葉や茶菓子程度しかない。何日ここで過ごすことになるか分からないが、これでは大人四人と子供二人の腹を満たすのは無理だということだ。

「じゃあ、飛竜の肉はこちらで食べてしまいましょう」

 コンラッドたちの様子に気づいたらしいアンジェラがそう提案する。

「お腹の肉は柔らかいし、煮込んでシチューにするといいわ。もも肉ならステーキにしてもいいし」

 次々指示し、保冷庫が使えることを確認すると、補助に使えると言う鱗の一枚に魔力を込めて保冷効果が続くよう施す。
 くるくると立ち働いたあとは、街で買い物や情報収集もしたいなどと言いだした。

「じゃあ俺が」
「エドガーはまだここにいたほうがいいわ。こういう時は大人のほうが無難よ」

 そう言ってアンジェラはエドガーからこの世界の服装の特徴を聞き出し、軽々と幻視の魔法で服を変えてしまった。さっき倒れたとは思えない、呆れるほどの魔力量だ。
 そのまま出かけようとするので慌てて追いかける。

「アンジェラ。私も行きます」

「旦那様は、ここでみんなを守って下さらないと」

「それならシドニーがいるから大丈夫ですよ。彼は私と同じくらい、もしかしたらそれ以上に強いですからね」

 何せ一緒に鍛錬を積んだ兄弟子だ。

 執事たちに後のことを頼むと、アンジェラは「まあ、それでしたら」と了承し、メロディに何か話す。そのあとエドガーにも頷きかけると、
「では参りましょう」
 と、コンラッドに微笑んだ。