星降る夜に、あの日のキスをもう一度



 軽い食事や次々にやってくる友人やその他の人々の相手をしながら、その時間を待つ。
 ヴィクトリアの助言に従って太陽の神の仮装をしているのだが、あまりコンラッドだとは気づかれていない。
 パッドを入れて幅を広く見せた肩にマントを羽織り、目元には大きめの仮面をつけている。肩まで届く長さの髪は元の黒色ではなく、薬を振り太陽神の髪の色である金色に変えていた。いつもまとめていたそれを今日はおろしている。
 そんな姿のせいか人の目がいつもと違うこともあり、誰かと話すことも程よく楽しむことができた。
 アンジェラが言っていたのは、きっとこういうことなのだろう。

 人々は思い思いに会場のあちらこちらにいるため、八の鐘がなる少し前にコンラッドが人の輪から外れても目立つことはなかった。

(本当にいるだろうか)

 直接何があると言われたわけではない。ただ、ヴィクトリアならコンラッドを担ぐようなことはしないと信用していた。

 そして、ほのかな灯りに照らされた温室のそばにアンジェラはいた。
 他に人気のないそこで、彼女は熱心に空を見ている。
 コンラッドは、しばらく息をするのも忘れて彼女に見惚れた。

 いつも襟もとでまとめられている黒髪は銀色に変えられ、頭の高いところで結われている。彼女の装いは白いドレスだ。くるぶしまであるそれはタイトなデザインで、首の後ろで結んだ部分がリボンに見えるのと、腰の高い部分で結んである細い革のリボン以外に目立った装飾がない。だがよく見ればたくさん細かいひだが寄せてあり、薄くて柔らかい布を贅沢に使っていることが分かる上品なデザインだ。
 もし弓を携えていれば、狩猟と女性の守護である月の女神の完成である。

「わが妻よ。宴の最中なのに、もう月に帰ろうとしているのですか?」

 コンラッドがいつもより低く堂々とした声で、芝居のセリフを応用して声をかけると、アンジェラは驚いたようにこちらを見て静かに微笑んだ。
 彼女の目元はいつもより力強く見えるもので、唇も濡れたように赤い。
 普段とは真逆にも思える姿で、コンラッドは自分の背筋がゾクゾクするのを感じた。

「まあ、我が背の君。あなたのほうこそ、宴はよろしいのですか?」

 声をかけてきたのが月の女神の夫である太陽神だと気づき、彼女のほうも芝居がかった口調で応える。
 その後二人で噴き出した。

「一人で何をしてたのですか?」
「星を見ていたんです。ここから綺麗に見えると友人から聞いて」

 そう言って再び空を見上げる彼女の視線を辿れば、なるほど、満天の星空だ。

 互いの正体を知らぬまま(いや、コンラッドは知っていたけれど)、他愛もない話をして盛り上がる。アンジェラとこんな風に打ち解けて話したのは初めてだけど、思いのほか気が合うことが分かり有頂天になった。

 遠くから流れる音楽に乗って踊り曲が途切れたとき、いくつかの星が流れるのが見える。アンジェラのほうからも見えたのだろう。「流れ星」と呟く唇に、コンラッドはすかさず自分のそれを重ねた。