星降る夜に、あの日のキスをもう一度


 そうしている間に季節は春。
 卒業前の最後の交流パーティーの日が近づいてきた。
 今回の会場はカレイド学園で行われることになっていて、趣向は仮装パーティーという一風変わったものになった。なんでも、誰が誰だかわからないように姿を変えて参加するというのだ。

「普段話したことがない人とも、話す機会を持てるかもしれないでしょう?」

 そう言ったのはアンジェラ。

 幻視の魔法を使うわけではなく(というか、使える者は国にもほぼいない)、ただ衣装などで雰囲気を変えるのだと言う。
 例えばと、彼女が簡単にスケッチして見せてくれた絵は、妖精だったり獣人だったり、あるいは神話に出てくる神々のような非現実的な装いだ。まるでおとぎ話や異世界から来たような姿は学生たちから大いにウケ、「ぜひやってみたい」と、準備はかつてないほど賑やかに行われた。

「アンジェラ。君はどのような格好をするの?」

 何でもない風にだが、コンラッドがかなりの勇気を振り絞って本人に聞くも、あっさり「秘密」とあしらわれてしまう。正体がばれたらつまらないだろうと。

 もちろん、恋人同士だったりすでに婚約していたりする者は、揃いになる装いをするようだが、コンラッドはアンジェラの恋人ではない。今でさえ、本人に名前を呼ぶだけでも胸がいっぱいになるという重症ぶりなのだ。

 ヴィクトリアはこの頃には、自分の崇拝者の一人であったジョナスとの婚約がほぼ決まっていて、二人で何か精霊の装いをするのだという。
 幸せそうな姿に当てられっぱなしだ。

「浮かない顔ね、コンラッド。そんな顔をしてたらアンジェラが悲しむわよ」

 ヴィクトリアの言葉に一瞬ハッとするも、彼女は発案者なんだからと当たり前のことを指摘され、うなだれる。

「最後のパーティーなんだよな」
「学生生活ではね」

 それはそうだが、きっと卒業してしまえば彼女と接点を持つことは難しくなる。

「仕方ないわね。アンジェラは月の女神の装いよ。太陽の神の格好でもしたら? ――なに、目を丸くしてるのよ。あなたがアンジェラに恋していることくらいお見通しよ」

 思いがけない指摘に絶句する。

「そんなにわかりやすかったか?」
「いいえ、全く」

 首を振ったヴィクトリアは、呆れたように腰に手を当てると、わざとらしく大きなため息をついてみせた。

「分かりづら過ぎて、本人にも全く気付かれてないわよ」
(そんな気はしてた)

 彼女を守りたいと同時に、積極的にいって逃げられたくなかった。
 そんな本音を漏らせば、
「あの子は強いわよ。そうそう守らせてなんかくれないわ。――意外? そうね。控えめな子だものね。でも隣に立つなら、守ってくれるよりも一緒に戦ってくれる人ではないとだめよ」
 それくらい、あの子の抱えているものは大きい……。

 最後のささやきはコンラッドに向けたものではなかっただろう。重要なのは彼女の装いが分かったことと、好みらしきものが分かったことだった。だからその時は、その言葉の意味はまるで気にしていなかったのだ。