星降る夜に、あの日のキスをもう一度


 そんな当時。成績順で二人共学生代表を務めていたのだが、その仕事の中に他校との交流というものがあった。学園の存在自体が社交を深め、人脈づくりをしたり伴侶を探すという目的があるためだ。カレイド学園ではあまり積極的に行っていなかったようだが。

「それじゃつまらないわよ」

 会議室でそう言うヴィクトリアに、コンラッドは肩をすくめる。

「そうか? 面倒がなくていいじゃないか」
「あなた、本当にめんどくさがってるだけでしょ」

 そりゃそうだろう。
 学園内だけでも手一杯なのだ。なぜ好き好んで面倒を増やさなければならない?

 だが結局、ヴィクトリアの強い希望と周りの賛成者多数ということで、交流会が行われることが決定した。他校に通うヴィクトリアの幼馴染が、やはり代表を務めている学園があるのでそこがいいだろうと、半ば強引に進められる。
 はっきり言ってコンラッドは傍観者に徹する気満々だった。

「リリス学園までは汽車で三時間近くかかるんだろう?」

 交流先が随分遠方であることに呆れていると、
「だから、中間で会うんでしょう。小旅行みたいで楽しいじゃない」
 と、ヴィクトリアはウキウキした顔を見せる。

 近くに他の学園もあるのにと思っていたが、顔合わせで訪れたホテルのロビーで彼女を見た瞬間、全てが変わった。

「アンジェラ! お待たせ!」

 ヴィクトリアが駆け寄り抱きしめた少女に、コンラッドは目が釘付けになった。
 簡単に結われただけの濡れたように光る艷やかな漆黒の髪、思慮深そうな灰色の目。ほっそりとした首筋に華奢な手足。ヴィクトリアを目にした瞬間、花が咲くように輝いた笑顔はまるで自分に向けられたようで、コンラッドの心臓がドクドクと激しく音を立てた。

 ヴィクトリアが華やかな夏の太陽ならば、彼女は秋の夜にひっそりとたたずむ細い三日月のよう。控えめで主張はしないけれど確かにそこにあり、ホッとするような小さな輝きを放っている。

「彼女が私の親友、アンジェラ・ドランベルよ」
「アンジェラです。よろしく」

 そう言って握手のために差し出された手を握れば、小さくてやわらかくて温かい。一瞬だけ力を込められて離れた手に、もう一度触れたいとさえ思った。
 それは生まれてはじめての感覚だった。

 そのとき感じたものをあえて言葉にするならば、
(この人を守りたい)
 それが一番近いだろうか。この胸に大切に抱きかかえ、雨風にさらすことなく幸せな光景だけを見せてあげたい。そんな純粋で、傲慢な気持ち。
 彼女が自分にだけ微笑んでくれたら、どれだけ幸せだろう。

 そしてそれが恋だと気づくのに、さして時間はかからなかった。