星降る夜に、あの日のキスをもう一度


   ◆

「先生、ごめん!」

 しばらく話をした後にエドガーがしたのは、それはそれはきれいな土下座だった。

(いやだわ、エドガーったら。ここで土下座なんて通じるわけないじゃない)

 極東の国ヒィズルならともかく。

 一瞬唖然としながら心の中で盛大にツッコミをいれるアンジェラの横で、コンラッドも「頭を上げなさい」と嘆息する。しかも「ここはヒィズルではない」と続けたので、アンジェラはチラッと彼のほうを盗み見た。
 さすが世界をまたにかける実業家だと思ったのだが、彼もまた意味ありげにアンジェラを一瞥する。

(もしかして、わたくしが昔、ヒィズルにいたことがあるのを知ってるの?)

 いや、まさか。そんなことはないだろう。

「いや、でも、本当にすみません」

 常に自信に満ちたエドガーが小さくなる姿に目を戻し、アンジェラは彼の肩を軽く叩いた。

 なぜアンジェラたちがここにいるのか聞いたエドガーに事の次第を教えると、突然真っ青になって頭を下げたのだ。どうやら彼が何か関わっているらしいことは分かったが、子どもの土下座なんて見てて気持ちのいいものではない。

(それに私が変な指導をしたようにも見えるじゃない?)

 一時期、エドガーの家庭教師をつとめたことがある。
 表向きは彼の双子の妹アデルの家庭教師で彼女にも指導をしていたけれど、実際は二人のための特殊な家庭教師だった。特にエドガーはこの国の常識からは桁外れ、もしくは化け物級と言えるほどの魔力を持っている。そんなエドガーを教えられる人材がいなかったのだ。

 大きすぎる魔力は心からの影響を強く受ける。

 アンジェラは存在自体が特殊なうえに魔力も高かったため、幼いエドガーの力を抑えることが叶った。彼の心の成長に伴い、徐々に開放されるよう複雑な封印を施したのもアンジェラだ。
 それはかつて、エドガーの曽祖父がアンジェラにしてくれたことの恩返しでもあった。

 エドガーがアンジェラを先生と呼んでいることで、師弟関係、もしくはそれに近いものだったことは想像がつくだろう。
 それだけに、あまり奇天烈なことをされてアンジェラがメロディの家庭教師をクビになる事態は避けたいところであった。

(そんなことになったら、ぜったいナタリーに怒られるし!)

 ママ、何してるの! と、こんこんと説教してくる姿がありありと浮かぶ。やだ、こわい。

「話を戻そう。エドガー。君のご両親の名前を教えてもらえるかい?」

 コンラッドが改めて自己紹介をしてから、そう尋ねた。

「はい。父はジョナス・ゴルド。母はヴィクトリア・ゴルドです」
「ああ、やはり」

 鷹揚に頷いたコンラッドはアンジェラのほうを見て、
「ではやはり、あなたはあの、アンジェラ・ドランベルで間違いないのですね」
 と、静かに笑った。

(あのってどの?)

 微かにアンジェラが首をかしげたのに気付いたのだろう。

「リリス学園のご出身でしたよね。私のことを覚えてはいませんか?」

(いえ、覚えてますけど、むしろなぜ貴方がわたくしを覚えてるのでしょう?)