「先生、まさか俺と一緒に来てくれるつもりでしたか? いや、もちろん歓迎だけど。それはそれですごく嬉しいし、絶対守るし、なんなら嫁にっ――――いや、でも俺、閣下に殺されるか」
身を乗り出すようにして軽口を連発したエドガーは、コンラッドの小さな咳払いに冷静になったのか、きちんと座りなおして苦笑した。それにつられてアンジェラも小さく微笑む。
この子の笑顔と心を守るためそばにいるつもりだったのに、離れたほうがいいと言われたことに正直複雑に心が乱れた。
「でも、この館ごとイリスに戻すのは大変でしょう」
「はい。一度には難しいです」
サシャ達こちらの魔術師とヴィクトリアで色々な方法を模索した結果、押し上げるよりも引き上げるほうが確実で、かつ負担が少ないだろうという結論に落ち着いたという。
「ただ、こちらから送り返せるのはエドガー様だけです。でもそれでは二度と来ていただくことが出来ません」
エドガーの召喚の道は一往復だけのようだ。
アンジェラとしてはそれでも構わないと思ったけれど、エドガーは首を振る。
「でもアンジェラ様でしたら、ヴィクトリア様と協力をしてあちらに送ることが出来ます。そこからこちらの方々とこの建物をアンジェラ様が引き上げて下さい。ご負担をおかけすることになりますが、確実に戻すにはほかに方法がないのです」
サシャ達の話を聞いて黙り込んだアンジェラを、コンラッドが気づかわしげに見て、ぎゅっと手を握ってくれる。その暖かさを感じながらも、アンジェラの中に色々な思いと不安が渦巻いていた。
(この体を二つに分けられたらいいのに)
「先生、ちょっといい?」
突然エドガーがそう言うと、アンジェラの答えも待たずにアンジェラを肩に担いだ。
「え、エドガー?」
「姫さん達、俺、先生と話があるから少し待ってて。閣下も来て。あ、マリオンも」
そのまま外に出ようか悩んだらしいエドガーが少し逡巡すると、気を取りなおしたようにリビングの反対側のコーナーへ移動し、パーテーションで空間を区切った。
「閣下、あれお願い」
口の動きでコンラッドに音を遮る魔法を頼むと、ようやくエドガーは呆然としているアンジェラを下ろした。
マリオンが少し面白そうに、「アンジェラ、だいじょうぶ?」と顔をのぞき込む。
「だいじょうぶ。び、びっくりしただけ」
荷物のように担がれたのは、今世では初めてだ。片腕で簡単に抱き上げられたことに、まだ理解が追い付かない気がした。
(エドガーは前世持ちではないわよね? マリオンも何も言ってないし)
セシルだった頃初めてリンに会ったとき、同じように担いで歩かれたことを思い出した。エドガーはまだリンより背も低いし肩幅だって狭いのに、同じことをするのは、もしや血なのだろうか。
「さて先生。ちょっと話をしようか」
「話? ええ、いいわよ。なに?」
まるでいっぱしの大人の男のようなエドガーの目に、(前世持ちじゃなくて、もしや人生二周目?)などと考えていたアンジェラは、エドガーから呆れたように睨め付けられた。
「これは俺の予想だけど、先生、まさかこの館をイリスに戻したら、今度は一人でこっちに戻ってこようとか思ってるわけじゃないよね?」



