彼女はセシルが処刑された時は眠っていた。だから目が覚めてから探しても、セシルはどこにもいなかった。
「あいつら鴇色の魔術師よりも質が悪かったよ。君のことを」
「しっ。いいのよ。何も言わないで。終わったことなの」
「でもセシルは鴇色の魔術師の仲間じゃないし、あいつを復活させたりしないのに。混乱した。まるでセシルが二人いるみたいに語られてた。セアラって誰だよ。聖女ってなんだよ。怒りで気が狂いそうだった。首謀者だった大臣と第四王子を見つけて八つ裂きにしたけど、それでも足りなかった。あいつらセシルを利用して!」
アンジェラ以外に聞こえないよう、低い声で話すマリオンが愛おしくなる。どれだけの孤独を味わわせたのだろう。
アンジェラは前世を覚えていることを、初めて感謝したかもしれない。
「わたくしはどうも、権力者に疎まれたり睨まれたりするタイプなのよね」
おどけたように肩をすくめるアンジェラを、マリオンは「バカなこと言わないで」と言って、ギュッと抱きしめる。
「奴らが死んでからやっと、馬鹿なことをしたって、セシルを殺したことを後悔するやつらがぽつぽつ現れたよ。今更だって思った。でもぼくは希望を捨てなかった。いつか会えるって信じてたんだ。だってセシルは、また記憶を持って生まれてくるって知ってたから」
ぐっと喉が詰まったような音がして、しばらく彼女がすすり泣く音だけが聞こえる。
アンジェラは自分よりも背が高くなったエルフの髪を黙って撫で続けた。
マリオンがセシルを待ちながら百年くらいたったころ、仲間のいる里をようやく見つけ、静かに暮らしていたらしい。
「最近、勇者を召喚したって噂を聞いたんだ。それでなんとなくセシルにも会えるんじゃないかって、いてもたってもいられなくなった。だから印のある場所を探したら、地図がきちんと光るんだもん。飛んできたよ。会いたかった」
ぐすっと鼻をすすり上げながら、マリオンは体を離してアンジェラの顔をのぞき込む。
「もしかして昨日市場でわたくしたちのことを見ていた?」
「気付いたの? うん、見てた。嬉しすぎて震えて動けなくなったよ」
「ありがとう、マリオン。あのね、わたくしの今の名前はアンジェラというのよ」
「アンジェラ! 素敵な名前だ。すごく似合ってる。それに今は幸せなんだね。魂を覆ってた黒いものが今はないんだもん。すごくキラキラの、綺麗な魂だ!」
マリオンはチラッとコンラッドたちを見て、嬉しそうに大きく笑った。



