星降る夜に、あの日のキスをもう一度

 アンジェラにとって、大切なものを守るために強くなることなんてなんでもなかった。遥かに年上に見せることだって、十八歳のか弱い小娘では叶わなかったから、そうしただけ。

「血のつながりって、そんなに重要かしら」
 自分が受けたものを誰かに返していく。それは人としてごく自然な行いだと思うのだけれど。

「女って生き物はね、キラキラ光る思い出が一つあれば、けっこう強く生きられるものなんですよ」
 だから――、他人でしかないあなたがそんな顔をする必要はないのよ。

   ◆

 ほんの少し前まで、窓の外に広がっていたのは美しい庭園のはずだった。

「先生、ここ、どこ?」

 さっきまでの生意気そうな表情がすっかり鳴りを潜めたメロディが、無意識なのかアンジェラの服をキュッと握りしめる。そのことが、まだ会ったばかりの少女でありながらアンジェラに、この子は保護すべきものという使命感を与えた。
 どんなに大人びたふりをしようと十二歳の少女だ。
 まだまだ大人に守られるべき存在。
 そしてアンジェラは今、臨時とはいえこの少女の家庭教師だ。

 今のアンジェラは、メロディからは祖母ぐらいの年代に見えているはずだった。
 ふんわりとふくらんだ白髪、ぽっちゃりとした体形に少し古い型のドレス姿。目じりの皺も深い、「どこにでもいる、人がよさそう老婦人」に。
 アンジェラが実際よりもはるかに年上に見せるのはすでに得意技だが、恐々と抱き着いてきたメロディは何か違和感を覚えたのか、戸惑ったような目で顔をあげる。見た目に反して抱き心地が悪いとでも思ったのかもしれない。

「いったい何が起こったんだ」

 一方、アンジェラの後ろから覆いかぶさるように外を見つめたメロディの父親、コンラッドも呆然とした声を出した。

(呆然としてても男前ですこと)

 ちらりとコンラッドを見上げたアンジェラは、その体温を感じる距離に戸惑いつつも、今ケアするべきは娘のほうだと、メロディの背中を優しく叩いた。
 コンラッドの後ろでは彼の執事とメイドが駆け回り、あちこちの窓をのぞき込んでいるのが分かる。