溺愛狂瀾〜元恋人たちの襲来で、私たちの恋は狂いだす〜

事件が起きたのは、その日の放課後だった。
蓮くんから『急に先生に呼び出された。10分だけ教室で待ってて!』というメッセージが届き、私は一人で席に残っていた。
クラスメイトが全員帰り、静まり返った教室。
帰ろうとした私の前に、すっと人影が立ちはだかった。
「ねえ、紬。久しぶりにおしゃべりしようよ」
太陽だった。彼は教室のドアを閉め、鍵をカチャリと閉めた。
「な、何の用……? 私、蓮くんが待ってるから……」
バッグを抱きしめ、後ずさりする私。
太陽はそんな私を嘲笑うように一歩詰め寄り、ポケットからスマートフォンを取り出した。
画面をこちらに向けて、スライドさせる。
「蓮、ね。瀬名蓮。陸上の天才って言われてたのに、中学のとき大きな事故で足の靭帯をやって引退したよね。……あの事故の『本当の原因』、紬は知ってる?」
「え……?」
「あれ、瀬名が自分で勝手に転んだことになってるけどさ。本当は、俺たちの仲間が仕組んだことなんだよね。瀬名が目障りだったからさ」
太陽は、まるで今日の天気でも話すかのような軽いトーンで、恐ろしいことを口にした。
「そんな……嘘……っ」
「嘘じゃないよ。これを見てもそう言える?」
太陽が画面を見せてくる。
そこには、中学時代の事故の現場と思われる、生々しい報告書や写真のデータが映し出されていた。
「これだけじゃないよ。ほら、これも可愛いでしょう?」
次に画面に表示されたのは、私と太陽の『写真』だった。
どこかの部屋で、私が太陽に抱きつかれ、幸せそうに微笑んでいる写真。
──けれど、私はこんな場所に行った記憶も、太陽とこんな風に笑い合った記憶もない。
「これ、捏造……? 私はこんなこと──」
「世間の奴らが、これが捏造かどうか調べると思う? 学校一のモテ男の彼女が、実は裏で別の男と浮気してた。しかも、その男は瀬名の足を壊した事件の関係者。……これがネットに流れたら、瀬名蓮はどうなるかな? 今度こそ、アイツのプライドも心も、完全に粉々に壊れちゃうね」
「やめて……っ!!」
私は思わず叫んだ。
蓮くんを、これ以上傷つけたくない。
あの綺麗な笑顔を、私のせいで曇らせたくない。
麗奈の言葉が脳裏をよぎる。
『あの人は傷つくのが怖いだけ』。
もしこの写真を見たら、蓮くんは──。
「嫌なら、俺のところに戻ってきてよ」
太陽は私の髪に触れ、耳元で狂気混じりの声を囁いた。
「瀬名には何も言うな。もしアイツに相談したり、バラそうとしたりしたら、その瞬間にこのデータを全部ぶちまけるから。分かった?」
「……っ」
私はただ、絶望の中で小さく 頷くことしかできなかった。
蓮くんを護るためには、私がこの秘密を墓場まで持っていくしかない。
でも、この嘘が、私たちをさらに深い泥沼へと引きずり込んでいくことに、私はまだ気づいていなかった。