溺愛狂瀾〜元恋人たちの襲来で、私たちの恋は狂いだす〜

翌日の雨の放課後、最悪の事件は起きた。
駅前のカフェで蓮を待っていたとき、偶然、雨宿りをしてきた麗奈と二人きりになってしまったのだ。
麗奈は私を見るなり、勝ち誇ったような笑みを浮かべて隣の席に座ってきた。
「紬ちゃん、相変わらず蓮くんにベタベタされて大変そうだね。あの人、執着激しいでしょ?」
「……蓮くんは、優しいです」
声を震わせながら言い返す私に、麗奈はクスリと冷たい笑い声を漏らす。
「優しい? あはは、何も知らないんだね。蓮くんが本当に優しいのはね、自分の『所有物』に対してだけだよ。私、あいつが陸上で怪我して、絶望して、ボロボロになって狂ってるところ全部見てるもん」
麗奈の手が、私の前に置かれたココアのカップをなぞる。
「あの人はね、傷つくのが怖いだけ。だから、自分を絶対に裏切らないような、大人しくて扱いやすい紬ちゃんを選んだの。ねえ、傷ついた蓮くんを支えもできなかった紬ちゃんが、今の『完璧な蓮くん』だけを美味しいとこ取りして、彼女面してていいの?」
美味しいとこ取り。その言葉が、私の心に深く、深く突き刺さった。
麗奈の言う通りだ。私は、蓮くんの輝いているところしか知らない。
蓮くんが一番苦しくて、泥水をすするような暗闇にいたとき、私は彼の隣にいなかった。
「紬!!」
激しい雨音を切り裂いて、息を切らした蓮がカフェに飛び込んできた。傘も差さずに走ってきたのか、制服が濡れている。
蓮は麗奈を見るや否や、獣のような鋭い目で麗奈の手首を掴み、私から引き離した。
「麗奈、お前……! 紬に何をした!?」
「何もしないよ〜、ただのおしゃべり。じゃあね、蓮くん」
麗奈は面白そうに笑いながら、雨の中へと消えていった。
残された蓮は、すぐに私の前に膝をつき、濡れた手で私の手を握りしめる。
「紬、大丈夫!? 何か言われた? ごめん、俺が遅くなったから……! 俺、紬が傷つくのが一番耐えられないんだ。お願いだから、泣かないで……」
私の手を自分の頬に擦り付け、縋るように見上げてくる蓮。
学校一のモテ男が、私の足元で、捨てられた犬みたいな目で私を求めている。
いつもなら、愛されている安心感で満たされるはずの光景。
なのに今の私には、その深すぎる溺愛が、私を縛り付ける呪いのように感じられてしまった。