溺愛狂瀾〜元恋人たちの襲来で、私たちの恋は狂いだす〜

トク、トク、と心地いい鼓動が、私の背中から伝わってくる。
カーテン越しに柔らかな朝の光が差し込む寝室。
後ろから私を壊れ物のようにきつく抱きしめ、首筋に深く顔を埋めているのは、数年前と変わらない、私の最愛の夫──瀬名蓮だ。
あの嵐の夜の逃避行から、数年が経った。
私たちは高校を退学したあと、親たちの追跡からも、世間の冷ややかな目からも完全に隠れるようにして、遠い海沿いの小さな町へと移り住んだ。
お父さんは犯した罪のすべてを認め、法的な償いを終えた。
今では遠くから私たちの幸せを静かに祈ってくれている。
そして、私たちの仲を引き裂こうとした太陽くんと麗奈ちゃんの消息は、もう誰も知らない。
私たちの世界から、彼らの存在は完全に消え去った。
「……紬、おはよう。今日も世界で一番可愛いね」
耳元で囁かれた、低くて心地いいハニーボイス。
振り返ると、少し大人びてさらに格好よくなった蓮くんが、愛おしそうに目を細めて微笑んでいた。
「もう、蓮くん。毎日起きて最初にそれ言うの、全然変わらないね」
「当たり前じゃん。俺の世界には、紬しか映ってないんだから」
蓮くんは私の頬を大きな手で包み込み、宝物を慈しむように優しく唇を重ねてくる。
今の蓮くんの足には、あの事故の、そしてあの山道でのチェイスの傷跡が今も生々しく残っている。
彼はもう、二度と陸上のトラックを全力で走ることはできない。
けれど、彼はその失った未来のすべてを、私という存在で埋め尽くすことで、この上ない幸福を感じていた。
今の蓮くんは、在宅でのデザインの仕事をしながら、一日のほとんどの時間を私を甘やかし、守り、愛することだけに費やしている。
私のスマートフォンには、今も蓮くん以外の連絡先は入っていない。
外出する時は必ず蓮くんが一緒だし、私の視線が他の誰かに一瞬でも向けば、彼は今でも捨てられた犬のような目で私を締め付ける。
世間の人は、これを「異常な依存」と呼ぶかもしれない。
けれど、今の私は知っている。
私はただ、与えられる愛に溺れるだけの無力なお姫様じゃない。
蓮くんのその狂気的な執着を丸ごと愛し、彼の世界のすべてになってあげることで、彼を支配している──世界で一番強欲な、お姫様なのだ。
「ねえ、蓮くん。今日はこれから、海辺のお散歩に行こ?」
「うん、紬がそうしたいなら、どこへでも行こう。一生、俺の傍から離れないでね」
「離れるわけないじゃん。私は、蓮くんの檻の中が一番大好きなんだから」
クスッと笑って、私はもう一度、彼の広い胸の中に深く顔を埋めた。
かつて朝の昇降口で始まった、完璧だった私たちの溺愛。
それは嘘と秘密、過去の因縁によって一度は残酷に狂い、形を変えたけれど。
すべてを削ぎ落とし、2人きりになったこの小さな部屋で、私たちの愛は誰にも壊せない「永遠の完成形」となった。

甘くて、重くて、息が詰まるほど愛おしい、2人だけの楽園。
私はこれからもずっと、この幸せな溺愛の中で、彼と一緒に生きていく。

──お姫様の恋は、幸せに溺れるために、今度こそ永遠になったのだから。

(完)