翌日の昼休み。
私は心ここにあらずの状態で、購買で買ったパンを握りしめていた。頭の中にあるのは、放課後に太陽から指定された『駅裏の古いスタジオに一人で来い』という脅迫だけだ。
行かなければ、蓮くんの過去も人生も、あの偽造された浮気写真でめちゃくちゃにされる。
でも、行ったら私はどうなってしまうのだろう。
「──紬ちゃん、そんな暗い顔してどうしたの?」
突然、背後から華やかな香水の香りが漂い、あざとい高音が鼓膜を揺らした。
佐々木麗奈だった。
彼女は私の目の前の席に断りもなく座ると、フッと楽しげに目を細めた。
「あはは、もしかして蓮くんに重すぎる愛をぶつけられて、愛想が尽きちゃった? あいつ、一度執着すると相手を監禁せんばかりに縛り付けるからね。私の時もそうだったし。あ、それとも......新しく来た『太陽くん』のせいかな?」
心臓がドクン、と嫌な跳ね方をした。
なぜ麗奈が太陽の名前を知っているのか。
動揺する私を、麗奈は値踏みするような冷たい瞳で見つめる。
「太陽くんって、すっごく格好よくて優しいよね。中学の時、紬ちゃんと付き合ってたんでしょ? 蓮くん、そんなあれが元カレだなんて知ったら、嫉妬で狂って太陽くんを殺しちゃうかもね。......あるいは、君をどこかへ閉じ込めるか」
「麗奈ちゃん......あなた、まさか......」
「何のこと? 私はただ、蓮くんには私みたいな、あいつの狂気を受け止められる女の子がお似合いだって言いたいだけ。大人しくて何もできない紬ちゃんじゃ、遅かれ早かれ蓮くんに壊されちゃうよ?」
麗奈は席を立ちながら、私の耳元に顔を寄せた。
「今日の放課後、楽しみだね」と、小さく囁いて。
彼女は太陽と繋がっている。
確信した瞬間、全身に冷や汗が吹き出した。
2人の悪意が、蜘蛛の巣のように私と蓮くんを絡め取ろうとしている。
そして、ついに放課後のチャイムが鳴り響いた。
スマホが震える。蓮くんからのメッセージだった。
『紬、今から行くから、一歩も動かずに待ってて!』という、切迫した文面。
昨日の今日だから、蓮くんの警戒心は最高潮に達している。
ごめんなさい、蓮くん......。あなたを護るためには、これしかないの……。
私は震える手で『ごめん、今日は急に体調が悪くなっちゃって、先に帰るね。お家でゆっくり休むから、今日は会えない』と嘘の返信を送り、スマホの電源を完全に切った。
心臓が痛いほど脈打つ。蓮くんを裏切るような行為に、涙が溢れそうになるのを必死に堪えた。
クラスメイトの波に紛れて昇降口を抜け、私は一人、激しい雨の残るどんよりとした空の下、駅裏の寂れた一角へと向かった。人気のない、薄暗いビルの地下にある古いスタジオ。
錆びついた鉄の扉を押し開けると、カビ臭い空気の中に、タバコとあの男の香りが混ざり合っていた。
「お帰り、紬。ちゃんと一人で来られたね。偉いよ」
暗がりの奥、ソファに深く腰掛けた太陽が、暗い笑みを浮かべて立ち上がった。
その手には、あの恐ろしい
データが入ったスマートフォンが握られている。一歩、また一歩と近づいてくる太陽の足音が、私を処刑台へと導くカウントダウンのように聞こえた。
「さあ、お仕置きの時間だ。瀬名蓮を愛した罪と、俺から逃げ出そうとした罪。......たっぷり償ってもらうからね」
太陽の冷酷な手が私の肩を掴み、強引に引き寄せた。
私は恐怖に目を見開き、奥歯をガタガタと震わせるしかなかった。
──その時、スタジオの鉄の扉が、凄まじい轟音を立てて内側へと蹴り破られた。
「──俺の女に、その汚い手で触るな」
逆光の中、ずぶ濡れの姿で立っていたのは、怒りと狂気で瞳を血走らせた、瀬名蓮だった。
嘘で塗り固められた決別は、最悪の形で暴かれ、引き裂かれる。
太陽の歪んだ罠と、蓮くんの狂おしいほどの執着が、ついに正面から激突する──。
私は心ここにあらずの状態で、購買で買ったパンを握りしめていた。頭の中にあるのは、放課後に太陽から指定された『駅裏の古いスタジオに一人で来い』という脅迫だけだ。
行かなければ、蓮くんの過去も人生も、あの偽造された浮気写真でめちゃくちゃにされる。
でも、行ったら私はどうなってしまうのだろう。
「──紬ちゃん、そんな暗い顔してどうしたの?」
突然、背後から華やかな香水の香りが漂い、あざとい高音が鼓膜を揺らした。
佐々木麗奈だった。
彼女は私の目の前の席に断りもなく座ると、フッと楽しげに目を細めた。
「あはは、もしかして蓮くんに重すぎる愛をぶつけられて、愛想が尽きちゃった? あいつ、一度執着すると相手を監禁せんばかりに縛り付けるからね。私の時もそうだったし。あ、それとも......新しく来た『太陽くん』のせいかな?」
心臓がドクン、と嫌な跳ね方をした。
なぜ麗奈が太陽の名前を知っているのか。
動揺する私を、麗奈は値踏みするような冷たい瞳で見つめる。
「太陽くんって、すっごく格好よくて優しいよね。中学の時、紬ちゃんと付き合ってたんでしょ? 蓮くん、そんなあれが元カレだなんて知ったら、嫉妬で狂って太陽くんを殺しちゃうかもね。......あるいは、君をどこかへ閉じ込めるか」
「麗奈ちゃん......あなた、まさか......」
「何のこと? 私はただ、蓮くんには私みたいな、あいつの狂気を受け止められる女の子がお似合いだって言いたいだけ。大人しくて何もできない紬ちゃんじゃ、遅かれ早かれ蓮くんに壊されちゃうよ?」
麗奈は席を立ちながら、私の耳元に顔を寄せた。
「今日の放課後、楽しみだね」と、小さく囁いて。
彼女は太陽と繋がっている。
確信した瞬間、全身に冷や汗が吹き出した。
2人の悪意が、蜘蛛の巣のように私と蓮くんを絡め取ろうとしている。
そして、ついに放課後のチャイムが鳴り響いた。
スマホが震える。蓮くんからのメッセージだった。
『紬、今から行くから、一歩も動かずに待ってて!』という、切迫した文面。
昨日の今日だから、蓮くんの警戒心は最高潮に達している。
ごめんなさい、蓮くん......。あなたを護るためには、これしかないの……。
私は震える手で『ごめん、今日は急に体調が悪くなっちゃって、先に帰るね。お家でゆっくり休むから、今日は会えない』と嘘の返信を送り、スマホの電源を完全に切った。
心臓が痛いほど脈打つ。蓮くんを裏切るような行為に、涙が溢れそうになるのを必死に堪えた。
クラスメイトの波に紛れて昇降口を抜け、私は一人、激しい雨の残るどんよりとした空の下、駅裏の寂れた一角へと向かった。人気のない、薄暗いビルの地下にある古いスタジオ。
錆びついた鉄の扉を押し開けると、カビ臭い空気の中に、タバコとあの男の香りが混ざり合っていた。
「お帰り、紬。ちゃんと一人で来られたね。偉いよ」
暗がりの奥、ソファに深く腰掛けた太陽が、暗い笑みを浮かべて立ち上がった。
その手には、あの恐ろしい
データが入ったスマートフォンが握られている。一歩、また一歩と近づいてくる太陽の足音が、私を処刑台へと導くカウントダウンのように聞こえた。
「さあ、お仕置きの時間だ。瀬名蓮を愛した罪と、俺から逃げ出そうとした罪。......たっぷり償ってもらうからね」
太陽の冷酷な手が私の肩を掴み、強引に引き寄せた。
私は恐怖に目を見開き、奥歯をガタガタと震わせるしかなかった。
──その時、スタジオの鉄の扉が、凄まじい轟音を立てて内側へと蹴り破られた。
「──俺の女に、その汚い手で触るな」
逆光の中、ずぶ濡れの姿で立っていたのは、怒りと狂気で瞳を血走らせた、瀬名蓮だった。
嘘で塗り固められた決別は、最悪の形で暴かれ、引き裂かれる。
太陽の歪んだ罠と、蓮くんの狂おしいほどの執着が、ついに正面から激突する──。



