「先生」
横についていた春河さんに耳打ちされて、慌てて色紙にサインする。線が少し歪んでしまったけど、先生は文句を言うでもなく笑顔で受け取った。
「これからも応援してます」
「ありがとう、ございます」
声は裏返ってなかっただろうか?
そんなことを考える暇もなく、先生は握手をするとあっさり離れていってしまった。
もしかして、私だと気づいてない?
あり得る。病院に行ったときとは全然違う服装だし、メイクや整えた髪で別人みたいになってるし。
うん、相手は気づかなかったことにしよう。そうしよう。
もし先生も気づいていたら……なんて不安を心の隅に追いやって、私は気持ちを切り替えて目の前のファンに集中する。
せっかく彫刻写真集を出してもらって、サイン会まで開催してくれたんだもの、真摯にならないと。
「ありがとうございます」
ファンの目を見て、笑顔で応対し続けた。



