「前林さん」
名古先生の声がいきなり優しくなった。
「このままでは本当に取り返しのつかないことになりますよ」
眉尻を下げて、子どもに言い聞かせるように説得しようとしてきた。しっかりと私の目を見るその姿に、この人はどこまでも親身になってくれる医者なんだと申し訳なくなる。
「はい。わかっています……春河さんがいなかったらどうなっていたか」
罪悪感で肩を落とすと、先生は優しい声のまま私を奥の部屋へと促した。ここのベッドで横になって点滴を受けることになり、私は春河さんを呼んでもらい、荷物を取ってきてほしいとお願いした。
「わかりました。一日分ならそう多くはないですね」
「ありがとう、仕事でもないのに……」
「いいえ、これからは生活も支えます」
春河さんは髪を耳にかけると、手帳を開いて予定をチェックしながら頷いた。
「サイン会には間に合いますね」



