始まりは、本当にちょっとした違和感。
尚紀さんが家に来た日や泊まった日。
仮眠や睡眠から目覚めると、ナイトウェアにどうしても違和感がある。
脱いでしまうような大胆なものではなく、裾が不自然にまくれているような──ほんの些細なもの。
一度気になってしまうとずっとそのことを考えてしまって、せっかく健康な生活を送れるようになったのに、このままでは逆戻りしてしまいそうだ。
「うー……どうしよう……」
私は作業場で、『ベールに包まれた聖母』のレプリカを前に指を組んでいた。
名匠ジョヴァンニ・ストラッツァが手がけたマリア様は、啓示を授けてくれるわけでもなく澄ました顔で作業机に鎮座している。
触れれば柔らかな感触とともに揺らぎそうなベールは、手を伸ばせばやはり硬い。夢と現実の違いを突きつけられた気がして、ため息混じりに天を仰いだ。
「……覚悟決めるか」



