恋を隠して、バレないで







「……は?」




ホールの扉が開いた瞬間、無意識に零れた声。


水浸しの床を拭いているウェイターと慌てたようにどこかへ電話をしている女性。それを見つめる人々。


近くにはピッチャーが転がっていた。きっとあれの中に入っていた水が零れたのだろう。



にしても騒然としている。
信じられない光景に思わず足が止まった。





「おい!飛鳥(アスカ)!!」

「え、ああ。これ何事?」

「お前が来る前に一年の生徒が水を頭から被ったんだよ。それでだいぶ騒動になった」

「被った?」





思い出すのはついさっき会った女性。

確か彼女はドレスから水が滴るほど濡れていた。水を被ったのはあの人だったらしい。




「お前見なかったか?濡れた人とか」

「うん、見たね」

「見たのかよ!!」





淡いピンクのドレスを着ていた。
後ろに行くにつれて長くなっていくドレスを。それに低めのベージュのパンプスを履いてた。





「彼女、外に向かって走っていったな」

「走るって……お前止めなかったのか!?」

「何言っても無駄だとわかったから。それに彼女にもプライドがあるだろうからね」





それでもこれは呼び止めるべきだったか。



あそこまで濡れたドレス。どれ程の水を彼女は被ったのだろうか。靴擦れしたかかとは、会場から逃げ出すために走ったのだろうか。



彼女を帰してしまった以上
今更考えても意味は無い。




「……はぁ」




小さく息を吐くと、俺はホールへと足を踏み入れた。