あなたを忘れたかったー元アイドルが恋に落ちるまでの物語ー


芸能人が多く通うこの学園では、昼休みの話題も少し特殊だ。


「えっ、うそ!?昨日のドラマ見た?」

「見た見た!あのキスシーンやばかったよね!」

「今度、一緒に共演するんだよね?」


そんなくだらない会話が飛び交う教室で、私は窓の外をぼんやり眺めていた。


五月の風が気持ちいい。
空は青くて。鳥たちは自由に空を泳いでいる。

それだけで、世界は今日も明るく輝いて見えた。


「こーとーはー!」


突然、後ろから勢いよく抱きつかれて、肩が跳ねる。


恋心(ここ)

「またぼーっとしてるよ〜?」


ほっぺをぷくっと膨らませながら私を覗き込んでくるのは、親友の恋心。

高校二年生、私と同い年。


現役モデルとして活躍する彼女は、学園でもトップクラスの有名人だ。


太陽みたいに明るくて。人懐っこくて。
自然にカールしたハーフツインには、大きなリボンが。

歩いているだけで目を引く。


そして――
私の過去を知る、数少ない人でもある。


「ねぇねぇ、琴葉(ことは)は今度のオーディション受けないの?」

「受けない」

「えー即答!?」

「即答」


恋心が大げさに肩を落とした。


「もったいないなぁ…」


そんな顔をされても困る。
だって私は、もう決めているから。

芸能界には戻らない。あの世界には、もう二度と。


「琴葉、本当に芸能界嫌いになっちゃったよね」

「別に嫌いじゃないよ」


芸能界が嫌いってわけじゃない。本当に。

ただ___思い出したくないだけ。
忘れたいだけ。それだけだ。


ふと、窓の外へ視線を向ける。
広い校庭。高いフェンス。その向こうにある世界。

あの日から止まったままの時間が、まだそこに残っている気がして。


「……琴葉?」

「ん?」

「また難しい顔してる」

「してないよ」

「してるって」


くすくすと笑う恋心。私もつられて笑った。


こんな日々が永遠に続けばいいのに。
静かで。平和で。

何も起こらない毎日が___