第1話 あなたに恋した季節は、春だった。
高校二年の春。 桜がまだ散らずに残る校庭で、紗絵は英二の笑顔を見ていた。 野球部の練習後、汗をぬぐう仕草すらまぶしくて、心が少しだけ痛くなる。
小春:「また、英二くん見てるでしょ」
背後から軽くつついてきたのは、小春。 笑ってはいるけれど、その目は少しだけ揺れていた。
紗絵:「……べつに、見てたわけじゃ……」
小春:「うそ。知ってるよ。だって、私も……英二くんのこと、好きだもん。」
言葉が、春風の中に溶けていった。
それからの日々、笑顔の裏にかすかな緊張が混ざりはじめた。 3人で帰る放課後、ふいに紗絵が靴ひもを直すふりをしたとき、英二は何も言わずに立ち止まってくれた。 でも——その肩をつかんだのは、小春だった。
ある日、教室の裏で紗絵はひとり、気持ちを整理しようとしていた。 そこへ、英二がやって来た。
英二:「……最近、なんか避けてない?」
紗絵:「……そうかも。でも、それは私が勝手に……」
英二:「紗絵のこと、ちゃんと見てたよ。前からずっと。」
視線が重なった瞬間、心に積もった迷いがふわっと解けていくようだった。
英二:「誰の前でも笑える小春もすごいけど……俺が本当に話したくなるのは、いつも静かに隣にいてくれる紗絵だった。」
【あなたとの恋する季節 続く】
第2話 あなたに告白されたのは、夏だった。
季節は夏に変わり、夕立のあとに虹がかかった帰り道。 傘を忘れたふたりは、図書室で雨宿りしていた。
英二:「なあ……」
突然の声に、紗絵は心臓が跳ねるのを感じた。
英二:「俺さ、今まで周りの目とか、気にしすぎてた気がする。でも最近……ひとりだけ、何を言われなくてもそばにいてくれる人に気づいた。」
紗絵:「……それって」
英二は少し照れくさそうに笑って、机の端を指先でなぞった。
英二:「紗絵。君といると、素でいられる。静かな時間が好きになったのは、君のおかげだと思う。」
雨音がだんだん遠くなっていくなかで、ふたりの視線が静かに重なる。
紗絵:「……私も、ずっと英二が好きだった。」
英二:「……やっぱり。ちゃんと言ってくれて、うれしい。」
外では虹が色づいていた。 心の奥まで染みわたるような静かな喜びが、ふたりを包んでいた。
【あなたと恋する季節 続く】
第3話 あなたと初めて手を繋いだのは、秋だった。
秋の風が街路樹を揺らして、落ち葉が舞い踊る休日。 待ち合わせ場所に現れた英二は、少しだけ髪が風に乱れていて、でもそのまっすぐな目が紗絵を見つけてふわっと優しくほころんだ。
英二:「来てくれてありがと。……その、今日、めっちゃ楽しみにしてた。」
紗絵:「うん。私も……ちょっと緊張してたけど。」
駅から少し歩いたところにある、イチョウ並木の公園。 色づいた木々の間をゆっくり歩きながら、ふたりは好きな映画や最近ハマっている音楽の話をして、少しずつ笑顔が増えていく。
英二:「……こんなふうに一緒に歩くの、ずっと夢だったかも。」
ふとした風に吹かれて、紗絵の髪が舞った。その瞬間、英二の手がそっと伸びて、紗絵の髪を耳にかける。
英二:「……風、強いな。」
そのまま、ふたりの手が触れあって、離れずに重なる。
紗絵:「……手、あったかいね。」
英二:「ああ。でも、心臓のほうがやばい。こっちのドキドキ、ばれそう。」
紅葉の絨毯を踏みしめながら進む道。 ふたりの歩幅がだんだんそろっていくのを感じながら、紗絵はそっとつぶやいた。
紗絵:「また来たいな、英二と。」
英二:「……何度でも。今日から、ふたりの季節、始まったばっかりだし。」
【あなたと恋する季節 続く】
第4話 あなたと雪だるまをつくったのは、冬だった。
冬休みのある日、ふたりは待ち合わせして近くの公園へ。 雪はしんしんと降り続けていて、世界をまっ白に包んでいた。
英二:「……この雪、めっちゃいい感じ。今日は、雪だるま、ふたりで作ろうな。」
紗絵:「うん。楽しみにしてた。子どものころ以来かも。」
ふたりは手袋越しに雪をまるめて、大きな雪だるまを作りはじめる。 その隣に、英二が妙に熱心にこねていたのは、小さな手のひらサイズの雪だるま。
紗絵:「それ……ちっちゃくてかわいいね。」
英二:「うん、これ……“ひみつの子”だから。」
ちょっとだけ意味深な笑みを残して、その“子”を大事そうに整えると、英二は紗絵のほうを向いた。
英二:「なあ、紗絵。俺たち、いろんな季節を一緒に過ごしてきたよな。笑ったり、泣いたり、悩んだりもして。」
英二は、小さな雪だるまの頭をそっと外すように持ち上げた。 その中から現れたのは、雪のようにきらめく、ひとつの指輪。
英二:「これからの季節も、全部……君と歩いていきたい。俺と、ずっと一緒にいてください。」
紗絵は手を口にあてて、しばらく何も言えなかった。 でも、その目には、こらえきれない涙と、誰にも負けない笑顔があふれていた。
紗絵:「……はい。よろこんで。」
雪がふたりの肩に舞い落ちるなか、指輪が静かに紗絵の薬指に光った。 それは、冬の冷たさを忘れるほど、あたたかい約束だった。
【あなたと恋する季節 続く】
最終話 あなたと結婚したのは、幸せのはじまりだった。
式の朝。空は高く澄みわたり、まるでふたりの門出を祝福するように光が差し込んでいた。
紗絵がウェディングドレスに袖を通した瞬間、鏡に映った自分の姿に、これまでの季節の記憶がふっとよみがえった—— 初めての出会い。 静かに重ねてきた時間。 春風に揺れた桜。 夏の雨宿り。 秋の初デート。 そしてあの、雪だるまの中の指輪。
扉が開いた瞬間、バージンロードの先に立っていた英二は、いつかと変わらないやわらかなまなざしで微笑んだ。
英二:「……なんかもう、泣きそう。」
紗絵:「わたしも。」
言葉にしなくても伝わる、その想い。 誓いの言葉を交わすとき、英二はほんの少し声を震わせながら言った。
英二:「人生って、思い通りにいかないことも多いけど……でも君といると、それも全部、意味のあることに変わる。俺の未来は、君とでなきゃ描けない。」
紗絵:「ずっと夢みてた“誰かの隣”が、英二でよかったって、心から思ってる。」
リングを交換し、キスを交わしたその瞬間、静かに拍手が広がり、陽の光がふたりにそっと降り注いだ。 祝福の中で、ふたりは互いの手をしっかりと握りしめた。
この先に、どんな季節が待っていても—— 今日という日が、ふたりの物語の新しい第一章となる。
【あなたと恋する季節 完結】
高校二年の春。 桜がまだ散らずに残る校庭で、紗絵は英二の笑顔を見ていた。 野球部の練習後、汗をぬぐう仕草すらまぶしくて、心が少しだけ痛くなる。
小春:「また、英二くん見てるでしょ」
背後から軽くつついてきたのは、小春。 笑ってはいるけれど、その目は少しだけ揺れていた。
紗絵:「……べつに、見てたわけじゃ……」
小春:「うそ。知ってるよ。だって、私も……英二くんのこと、好きだもん。」
言葉が、春風の中に溶けていった。
それからの日々、笑顔の裏にかすかな緊張が混ざりはじめた。 3人で帰る放課後、ふいに紗絵が靴ひもを直すふりをしたとき、英二は何も言わずに立ち止まってくれた。 でも——その肩をつかんだのは、小春だった。
ある日、教室の裏で紗絵はひとり、気持ちを整理しようとしていた。 そこへ、英二がやって来た。
英二:「……最近、なんか避けてない?」
紗絵:「……そうかも。でも、それは私が勝手に……」
英二:「紗絵のこと、ちゃんと見てたよ。前からずっと。」
視線が重なった瞬間、心に積もった迷いがふわっと解けていくようだった。
英二:「誰の前でも笑える小春もすごいけど……俺が本当に話したくなるのは、いつも静かに隣にいてくれる紗絵だった。」
【あなたとの恋する季節 続く】
第2話 あなたに告白されたのは、夏だった。
季節は夏に変わり、夕立のあとに虹がかかった帰り道。 傘を忘れたふたりは、図書室で雨宿りしていた。
英二:「なあ……」
突然の声に、紗絵は心臓が跳ねるのを感じた。
英二:「俺さ、今まで周りの目とか、気にしすぎてた気がする。でも最近……ひとりだけ、何を言われなくてもそばにいてくれる人に気づいた。」
紗絵:「……それって」
英二は少し照れくさそうに笑って、机の端を指先でなぞった。
英二:「紗絵。君といると、素でいられる。静かな時間が好きになったのは、君のおかげだと思う。」
雨音がだんだん遠くなっていくなかで、ふたりの視線が静かに重なる。
紗絵:「……私も、ずっと英二が好きだった。」
英二:「……やっぱり。ちゃんと言ってくれて、うれしい。」
外では虹が色づいていた。 心の奥まで染みわたるような静かな喜びが、ふたりを包んでいた。
【あなたと恋する季節 続く】
第3話 あなたと初めて手を繋いだのは、秋だった。
秋の風が街路樹を揺らして、落ち葉が舞い踊る休日。 待ち合わせ場所に現れた英二は、少しだけ髪が風に乱れていて、でもそのまっすぐな目が紗絵を見つけてふわっと優しくほころんだ。
英二:「来てくれてありがと。……その、今日、めっちゃ楽しみにしてた。」
紗絵:「うん。私も……ちょっと緊張してたけど。」
駅から少し歩いたところにある、イチョウ並木の公園。 色づいた木々の間をゆっくり歩きながら、ふたりは好きな映画や最近ハマっている音楽の話をして、少しずつ笑顔が増えていく。
英二:「……こんなふうに一緒に歩くの、ずっと夢だったかも。」
ふとした風に吹かれて、紗絵の髪が舞った。その瞬間、英二の手がそっと伸びて、紗絵の髪を耳にかける。
英二:「……風、強いな。」
そのまま、ふたりの手が触れあって、離れずに重なる。
紗絵:「……手、あったかいね。」
英二:「ああ。でも、心臓のほうがやばい。こっちのドキドキ、ばれそう。」
紅葉の絨毯を踏みしめながら進む道。 ふたりの歩幅がだんだんそろっていくのを感じながら、紗絵はそっとつぶやいた。
紗絵:「また来たいな、英二と。」
英二:「……何度でも。今日から、ふたりの季節、始まったばっかりだし。」
【あなたと恋する季節 続く】
第4話 あなたと雪だるまをつくったのは、冬だった。
冬休みのある日、ふたりは待ち合わせして近くの公園へ。 雪はしんしんと降り続けていて、世界をまっ白に包んでいた。
英二:「……この雪、めっちゃいい感じ。今日は、雪だるま、ふたりで作ろうな。」
紗絵:「うん。楽しみにしてた。子どものころ以来かも。」
ふたりは手袋越しに雪をまるめて、大きな雪だるまを作りはじめる。 その隣に、英二が妙に熱心にこねていたのは、小さな手のひらサイズの雪だるま。
紗絵:「それ……ちっちゃくてかわいいね。」
英二:「うん、これ……“ひみつの子”だから。」
ちょっとだけ意味深な笑みを残して、その“子”を大事そうに整えると、英二は紗絵のほうを向いた。
英二:「なあ、紗絵。俺たち、いろんな季節を一緒に過ごしてきたよな。笑ったり、泣いたり、悩んだりもして。」
英二は、小さな雪だるまの頭をそっと外すように持ち上げた。 その中から現れたのは、雪のようにきらめく、ひとつの指輪。
英二:「これからの季節も、全部……君と歩いていきたい。俺と、ずっと一緒にいてください。」
紗絵は手を口にあてて、しばらく何も言えなかった。 でも、その目には、こらえきれない涙と、誰にも負けない笑顔があふれていた。
紗絵:「……はい。よろこんで。」
雪がふたりの肩に舞い落ちるなか、指輪が静かに紗絵の薬指に光った。 それは、冬の冷たさを忘れるほど、あたたかい約束だった。
【あなたと恋する季節 続く】
最終話 あなたと結婚したのは、幸せのはじまりだった。
式の朝。空は高く澄みわたり、まるでふたりの門出を祝福するように光が差し込んでいた。
紗絵がウェディングドレスに袖を通した瞬間、鏡に映った自分の姿に、これまでの季節の記憶がふっとよみがえった—— 初めての出会い。 静かに重ねてきた時間。 春風に揺れた桜。 夏の雨宿り。 秋の初デート。 そしてあの、雪だるまの中の指輪。
扉が開いた瞬間、バージンロードの先に立っていた英二は、いつかと変わらないやわらかなまなざしで微笑んだ。
英二:「……なんかもう、泣きそう。」
紗絵:「わたしも。」
言葉にしなくても伝わる、その想い。 誓いの言葉を交わすとき、英二はほんの少し声を震わせながら言った。
英二:「人生って、思い通りにいかないことも多いけど……でも君といると、それも全部、意味のあることに変わる。俺の未来は、君とでなきゃ描けない。」
紗絵:「ずっと夢みてた“誰かの隣”が、英二でよかったって、心から思ってる。」
リングを交換し、キスを交わしたその瞬間、静かに拍手が広がり、陽の光がふたりにそっと降り注いだ。 祝福の中で、ふたりは互いの手をしっかりと握りしめた。
この先に、どんな季節が待っていても—— 今日という日が、ふたりの物語の新しい第一章となる。
【あなたと恋する季節 完結】



