恋とか、愛とか。

「あー、もう! どうしよう、全然決まんない!」
手鏡の前で、私はさっきから何度も髪型を変えている。アップにするか、それともハーフアップにするか。今日は待ちに待った星の宮の七夕祭り。そして、大好きな玲央くんとの初めてのデートの日。柚葉にもLINEで「浴衣新調しちゃおうかな」なんて大騒ぎしちゃった。 本当は柚葉も一緒に誘ったんだけど、「お家でのんびりしてる」って断られちゃったんだよね。最近の柚葉、時々すごく寂しそうな目をするから心配。でも、今日だけは、私のこの爆発しそうな心臓をどうにかすることに集中させてほしい。ピンクの帯をきゅっと結んで、よし、完成!
約束の時間の10分前、私はお祭りの入り口にある大きな鳥居の前に着いた。じりじりと照りつける太陽がようやく沈み、夕暮れ時の涼しい風が浴衣の裾を揺らす。
「あ、綾香!」
人混みの向こうから、聞き慣れた声がしてバッと振り向いた。そこには、いつも着ている制服じゃなくて、私服姿の玲央くんが立っていた。
「……待った?」
「ううん、今来たところ! 玲央くん、その服かっこいいね」
「あ、ありがと。ていうか、綾香……浴衣、すげー似合ってる」
玲央くんがちょっと照れくさそうに頭を掻きながら、顔を赤くする。その顔を見た瞬間、私の心臓は完全に限界を迎えた。やばい、嬉しすぎて、息が上手くできない。
お祭りの境内は、たくさんの提灯の明かりで幻想的にライトアップされていた。出店の美味しそうな匂いと、たくさんの人の熱気。どこを歩いても賑やかで、それだけでお祭り気分が最高潮になる。
「何食べる? たこ焼き? それとも、りんご飴?」
「りんご飴食べたい! あ、でも、あっちのイカ焼きも美味しそう!」
「欲張りだなあ、綾香は」
玲央くんがガハハと笑う。その笑顔が、世界で一番眩しい。二人で並んで歩いているだけで、なんだか夢の中にいるみたい。周りの人混みが激しくなって、すれ違う人と肩がぶつかりそうになった。
「っと……危ねえな」
その時、玲央くんが私の手首をそっと掴んで、自分の側に引き寄せてくれた。
「はぐれるから。……その、手、繋いでいい?」
「えっ……うん、お、お願いします……!」
差し出された玲央くんの手を、私は緊張で汗ばんだ手できゅっと握り返した。
玲央くんの手は、男の子らしくて、大きくて、すごく温かかった。繋いだ手から、玲央くんのドクドクという心臓の鼓動まで伝わってくる気がした。
大きな笹の葉の前に来ると、色とりどりの短冊が風に揺れていた。
「ねえ、玲央くんも短冊書こうよ!」
「えー、男がそんなの書くの恥ずかしいんだけど」
「いいじゃん! はい、これ玲央くんの分!」
私は無理やり、青い短冊とペンを玲央くんに握らせた。私はピンクの短冊に、ずっとずっと心の中で願っていたことを書いた。
【これからも、玲央くんの隣にいられますように】
書き終わって、玲央くんの短冊をこっそり覗こうとしたけれど、手で隠されてしまった。 「コラ、見るなよ」
「えー! ケチ! なんて書いたの?」
「秘密。……いつか叶ったら教えてやる」
玲央くんは意地悪そうにニカッと笑って、短冊を高い笹の枝に結びつけた。その横顔を、私は愛おしくてたまらない気持ちで見つめていた。
お祭りの終わり際、神社の裏手にある少し静かな高台に移動した。ここからは、街の夜景と、これから上がる花火が一番綺麗に見える特等席。
ヒュウゥゥゥ──……。
夜空に一条の光が昇っていったかと思うと、 ドンッ!!! お腹に響く大きな音と一緒に、夜空に大輪の、色鮮やかな花火が咲いた。
「わあ……! 綺麗……!!」
赤、青、金色の光が、私たちの顔を代わる代わるに照らし出す。その光の中で、玲央くんが私の方を真っ直ぐに向いた。
「綾香」
「え、何……?」
花火の音に消されないように、玲央くんは一歩近づいて、私の目をじっと見つめた。
「俺、綾香のことが好きだ。付き合ってほしい」
心臓が、跳ね上がった。 花火の音よりも大きな音が、胸の中で鳴り響いた気がした。あまりの衝撃と嬉しさに、視界が涙でじわっと滲んでいく。
「……私も、私もずっと玲央くんが好きだった……! よろしくお願いします!」
私がそう答えると、玲央くんは本当に嬉しそうな顔をして、繋いだ手にぎゅっと力を込めた。 上を見上げると、夜空には満開の花火。そしてその奥には、織姫と彦星を結ぶ、天の川のような満天の星空が広がっている。これが、私の人生で一番幸せな、運命の七夕祭り。
柚葉、私、大好きな人と両想いになれたよ……!

最高の幸せに包まれながら、私はこの夏一番の笑顔で、大好きな人の手を強く握りしめていた。