「なんで、ちゃんと言ってくれなかったの?」
綾香の声は、少しだけ震えていた。
柚葉はすぐに答えられなかった。
教室の空気だけが、重く沈んでいく。
「……言うって、何を」
「今のこと全部でしょ」
綾香は一歩近づく。
「川口くんのこと、好きじゃないの?」
その言葉に、柚葉の胸が強く揺れた。
違う、と言えば簡単だった。
でも、それもできない。
好きじゃないとも、好きだとも言い切れない。
ただ、その沈黙だけが本当だった。
「分かんない」
やっと出た声は、小さくて頼りなかった。
「分かんないってなにそれ」
綾香は眉をひそめる。
「好きって言われたんでしょ? 普通は嬉しいじゃん」
「嬉しかったよ」
それは嘘じゃない。
あの瞬間、確かに胸は跳ねた。
でも同時に、別の痛みも走った。
嬉しいのに、苦しい。
前に進みたいのに、進めない。
「じゃあなんで断ったの」
その問いに、柚葉は唇を噛んだ。
言えない。
言いたくないわけじゃない。
ただ――これは、軽く話していいことじゃない気がした。
それでも、綾香は待っていた。
逃げられないまま、柚葉はゆっくりと口を開く。
「……昔ね」
声がかすれる。
「好きな人がいたの」
綾香の表情が少しだけ変わる。
柚葉は続けた。
「でも、その人……もういなくて」
教室が静かになる。
「事故で、もう会えない……。私をかばって、死んだの……。私のせいなの……。私がそのまま走っちゃったから……。だから……」
言葉にした瞬間、胸の奥がきゅっと痛んだ。
ずっと閉じていた箱を開けたみたいに、空気が変わる。
「ずっと忘れたふりしてた」
柚葉は自分の手を見つめた。
「もう平気だって思ってたのに……。川口くんに“好き”って言われた時……」
一度、息を吸う。
「その人のこと、急に思い出した」
綾香は何も言わない。
ただ、黙って聞いている。
「好きって言われて嬉しかったのに……。嬉しいのに、怖くて」
柚葉は小さく笑った。
それは笑顔というより、崩れそうな表情だった。
「また誰かを好きになったら、あの人を忘れる気がして」
「忘れたら、いけない気がして」
声が震える。
「だから……逃げた」
言い終わった瞬間、教室がやけに静かに感じた。
綾香はしばらく黙っていた。
そして、小さく息を吐く。
「そっか」
それだけだった。
責めるでもなく、驚くでもなく。
ただ受け止める声だった。
「じゃあさ」
綾香は机に手をつく。
「それ、川口くんに言わないの?」
柚葉は目を見開く。
「言えるわけない」
「なんで」
「だって……そんなの」
言葉が詰まる。
「重いし、困るでしょ」
綾香は少しだけ目を細めた。
「でもさ」
静かな声。
「何も言わないまま終わるほうが、もっとしんどくない?」
柚葉は答えられなかった。
夕日が窓から差し込んで、教室を赤く染めていく。
その光の中で、柚葉の胸の奥だけが、ずっと揺れていた。
綾香の声は、少しだけ震えていた。
柚葉はすぐに答えられなかった。
教室の空気だけが、重く沈んでいく。
「……言うって、何を」
「今のこと全部でしょ」
綾香は一歩近づく。
「川口くんのこと、好きじゃないの?」
その言葉に、柚葉の胸が強く揺れた。
違う、と言えば簡単だった。
でも、それもできない。
好きじゃないとも、好きだとも言い切れない。
ただ、その沈黙だけが本当だった。
「分かんない」
やっと出た声は、小さくて頼りなかった。
「分かんないってなにそれ」
綾香は眉をひそめる。
「好きって言われたんでしょ? 普通は嬉しいじゃん」
「嬉しかったよ」
それは嘘じゃない。
あの瞬間、確かに胸は跳ねた。
でも同時に、別の痛みも走った。
嬉しいのに、苦しい。
前に進みたいのに、進めない。
「じゃあなんで断ったの」
その問いに、柚葉は唇を噛んだ。
言えない。
言いたくないわけじゃない。
ただ――これは、軽く話していいことじゃない気がした。
それでも、綾香は待っていた。
逃げられないまま、柚葉はゆっくりと口を開く。
「……昔ね」
声がかすれる。
「好きな人がいたの」
綾香の表情が少しだけ変わる。
柚葉は続けた。
「でも、その人……もういなくて」
教室が静かになる。
「事故で、もう会えない……。私をかばって、死んだの……。私のせいなの……。私がそのまま走っちゃったから……。だから……」
言葉にした瞬間、胸の奥がきゅっと痛んだ。
ずっと閉じていた箱を開けたみたいに、空気が変わる。
「ずっと忘れたふりしてた」
柚葉は自分の手を見つめた。
「もう平気だって思ってたのに……。川口くんに“好き”って言われた時……」
一度、息を吸う。
「その人のこと、急に思い出した」
綾香は何も言わない。
ただ、黙って聞いている。
「好きって言われて嬉しかったのに……。嬉しいのに、怖くて」
柚葉は小さく笑った。
それは笑顔というより、崩れそうな表情だった。
「また誰かを好きになったら、あの人を忘れる気がして」
「忘れたら、いけない気がして」
声が震える。
「だから……逃げた」
言い終わった瞬間、教室がやけに静かに感じた。
綾香はしばらく黙っていた。
そして、小さく息を吐く。
「そっか」
それだけだった。
責めるでもなく、驚くでもなく。
ただ受け止める声だった。
「じゃあさ」
綾香は机に手をつく。
「それ、川口くんに言わないの?」
柚葉は目を見開く。
「言えるわけない」
「なんで」
「だって……そんなの」
言葉が詰まる。
「重いし、困るでしょ」
綾香は少しだけ目を細めた。
「でもさ」
静かな声。
「何も言わないまま終わるほうが、もっとしんどくない?」
柚葉は答えられなかった。
夕日が窓から差し込んで、教室を赤く染めていく。
その光の中で、柚葉の胸の奥だけが、ずっと揺れていた。



