「やっとか! 柚葉が恋するなって!」
放課後の教室に、綾香の大きな声が響いた。
柚葉は思わず顔をしかめる。
「うるさい……」
「だってさ! ずっと“恋とか興味ない”って顔してたじゃん!」
綾香は机に身を乗り出して、楽しそうに笑う。
「で? 誰? 川口くん?」
「ち、違うし」
即答したのに、声が少しだけ揺れた。
その小さな変化を、綾香は見逃さない。
「え、なにその反応。え、マジで?」
「だから違うってば」
そう言いながらも、柚葉の心臓は落ち着かない。
――川口諒。
名前を思い浮かべただけで、胸が少しだけ騒ぐ。
けれど、それを「恋」と呼ぶには、まだ自信がなかった。
「じゃあ誰なのさ」
綾香は頬杖をついて、にやにやしながら見つめてくる。
柚葉は視線を逸らした。
「……別に、いない」
「うそだー」
即座に否定される。
「柚葉ってさ、隠すの下手だよね」
「うるさい」
軽口を叩きながらも、教室の空気はどこか柔らかい。
こうやって、何でもない話をして笑い合う時間が、私は嫌いじゃなかった。
むしろ、少しだけ安心する。
「まあいいけどさ」
綾香は背伸びをして、窓の外を見る。
「恋ってさ、する時は勝手に落ちるもんだよね」
「……なにそれ」
「だってさ。気づいたら好きになってるんだよ。気づいた時にはもう遅い、みたいな」
その言葉に、柚葉は一瞬だけ言葉を失う。
気づいた時にはもう遅い。
そのフレーズだけが、妙に胸に残った。
「柚葉もさ、そのうち分かるよ」
「分かりたくないんだけど」
「まあまあ」
綾香は笑いながら、柚葉の肩を軽く叩いた。
「でもさ、もし好きな人できたらちゃんと言いなよ? 私、全力で応援するからさ」
その言葉に、柚葉は小さく目を伏せる。
応援。
その言葉が、少しだけ怖かった。
もし本当に好きな人ができたとして。それが誰かを傷つけることになるなら。
――私は、どうすればいいんだろう。
「……できたらね」
小さくそう答えるのが、今の柚葉の精一杯だった。
綾香はそれを聞いて満足したように笑う。
「よし、じゃあ恋愛解禁ね!」
「勝手に解禁しないで」
そう言いながらも、柚葉の胸の奥にはまだ、名前のない感情が静かに残っていた。
その正体を、この時の柚葉はまだ知らない。
そして綾香もまた、それを知ることはないまま、いつも通り笑っていた。
放課後の教室に、綾香の大きな声が響いた。
柚葉は思わず顔をしかめる。
「うるさい……」
「だってさ! ずっと“恋とか興味ない”って顔してたじゃん!」
綾香は机に身を乗り出して、楽しそうに笑う。
「で? 誰? 川口くん?」
「ち、違うし」
即答したのに、声が少しだけ揺れた。
その小さな変化を、綾香は見逃さない。
「え、なにその反応。え、マジで?」
「だから違うってば」
そう言いながらも、柚葉の心臓は落ち着かない。
――川口諒。
名前を思い浮かべただけで、胸が少しだけ騒ぐ。
けれど、それを「恋」と呼ぶには、まだ自信がなかった。
「じゃあ誰なのさ」
綾香は頬杖をついて、にやにやしながら見つめてくる。
柚葉は視線を逸らした。
「……別に、いない」
「うそだー」
即座に否定される。
「柚葉ってさ、隠すの下手だよね」
「うるさい」
軽口を叩きながらも、教室の空気はどこか柔らかい。
こうやって、何でもない話をして笑い合う時間が、私は嫌いじゃなかった。
むしろ、少しだけ安心する。
「まあいいけどさ」
綾香は背伸びをして、窓の外を見る。
「恋ってさ、する時は勝手に落ちるもんだよね」
「……なにそれ」
「だってさ。気づいたら好きになってるんだよ。気づいた時にはもう遅い、みたいな」
その言葉に、柚葉は一瞬だけ言葉を失う。
気づいた時にはもう遅い。
そのフレーズだけが、妙に胸に残った。
「柚葉もさ、そのうち分かるよ」
「分かりたくないんだけど」
「まあまあ」
綾香は笑いながら、柚葉の肩を軽く叩いた。
「でもさ、もし好きな人できたらちゃんと言いなよ? 私、全力で応援するからさ」
その言葉に、柚葉は小さく目を伏せる。
応援。
その言葉が、少しだけ怖かった。
もし本当に好きな人ができたとして。それが誰かを傷つけることになるなら。
――私は、どうすればいいんだろう。
「……できたらね」
小さくそう答えるのが、今の柚葉の精一杯だった。
綾香はそれを聞いて満足したように笑う。
「よし、じゃあ恋愛解禁ね!」
「勝手に解禁しないで」
そう言いながらも、柚葉の胸の奥にはまだ、名前のない感情が静かに残っていた。
その正体を、この時の柚葉はまだ知らない。
そして綾香もまた、それを知ることはないまま、いつも通り笑っていた。



