合唱コンクールでも優勝でき、最高の星の宮祭が終わった。
また、私は星の宮祭で川口くんが好きだと気づいた。
でも、碧にどんな顔して会えばいいんだろう……。
好きだと気づいてしまった……。だからもう、後戻りできない……。
碧だけを好きでいると決めたのに、川口くんの優しさに触れるたび好きが加速してしまう。
川口諒のことを好きだと気づいた日から、柚葉の心はずっと落ち着かなかった。
文化祭が終わっても、放課後の教室に残っても、あの時の感覚だけが何度も蘇る。
助けられたこと。
見つめられたこと。
「似合ってる」と言われた、たった一言。
それだけで、自分の中にあった何かが崩れてしまった。
幸せなことなのに、私は幸せに感じられない……。
川口くんが好き……。好きなのに……。
碧だけ、好きでいたあのときの自分が今は恋しい……。
どうすればいいのかな? 私……。
碧に謝りたい……。ごめんって……。
こんな気持ちを捨てたい……。
今はただ、碧に会いたい……。
それが“恋”だと気づいてしまった今、私はある場所へ向かっていた。
誰にも言わなかった場所。
何度も足を運んだ場所。
小さな坂道を登った先にある、静かな墓地。
風が少し冷たくて、制服のスカートが揺れる。
柚葉はゆっくりと立ち止まった。
そこにある名前を見るだけで、胸の奥がきゅっと痛くなる。
――碧。
ずっと、伝えられなかった名前。
「……来ちゃった」
誰に言うでもなく、小さく呟く。
手には、小さな花束と、いつも通りの言葉の準備。
でも今日は違った。
いつもみたいに、ただ報告するためじゃない。
誰かのことを好きになってしまったことを、どうしても伝えたくて来た。
墓石の前にしゃがみ込む。
そっと手を合わせる。
「ねえ、碧」
「私……たぶん、人を好きになっちゃった」
声が少し震える。
「ずっと気づかないふりしてたけど……」
「助けてもらったあの日から、ずっと……」
言葉が途切れる。
風が一度だけ強く吹いて、花が揺れた。
そのときだった。
墓石の横、小さな石の隙間に、何か白いものが挟まっているのに気づく。
「……え?」
柚葉はゆっくりと手を伸ばす。
それは、折りたたまれた手紙だった。
少し色あせていて、でも丁寧に保管されている。
自分のものじゃない。
でも、どこか見覚えがあるような気がした。
震える指で、それをそっと開く。
裏には、小さく書かれていた。
――母より。碧の遺した手紙です。
心臓が、一瞬止まる。
「……え」
声にならない声が漏れる。
柚葉は、その場に座り込んだまま、しばらく動けなかった。
どうして。
なんで今。
どうしてここに。
でも、次の瞬間。
なぜか分かってしまう。
これは偶然じゃない。
碧の母が、ずっとここに来ている柚葉のことを知っていて。
ずっと、見ていてくれていて。
だから――今、渡されたんだと。
柚葉の指が、ゆっくりと手紙を握りしめる。
涙が落ちそうになるのを、必死でこらえながら。
「……碧」
小さく、その名前を呼んだ。
そして、静かに手紙を開いた。
[柚葉へ
この手紙を読んでいるということは、きっと僕はもう君の隣にはいないんだと思います。
まず最初に、一つだけ言わせてください。
今までずっと彼女でいてくれてありがとう。
僕のお墓の前で話してくれたこと、実は全部聞いていた気がするんだ。
学校であったこと。
友達のこと。
嬉しかったこと。
悲しかったこと。
柚葉はいつも僕に話しかけてくれたね。
僕は返事ができなかったけれど、その時間がすごく嬉しかった。
だからね、柚葉。
もう謝らなくていいんだよ。
「助けられなくてごめん」
「忘れたらだめな気がする」
そんなこと、ずっと思わなくていい。
僕は君を責めたことなんて、一度もないから。
むしろ、君には笑っていてほしかった。
幸せになってほしかった。
それだけなんだ。
ねえ、柚葉。
君は優しいから、自分の気持ちより誰かを優先してしまうよね。
だから今、これだけはちゃんと伝える。
恋をしてください。
誰かを好きになってください。
その人とたくさん笑ってください。
その人とたくさん話してください。
その人とたくさん思い出を作ってください。
僕のことで立ち止まらないで。
僕を忘れろと言っているわけじゃない。
忘れなくていい。
思い出の中に僕を置いたままでいい。
だけど、その思い出に縛られないでほしい。
君の未来には、まだたくさんの幸せが待っているから。
もし今、君の心の中に誰かがいるなら。
その人を大切にしてあげて。
その恋を怖がらないで。
僕はね。
君が誰かを好きになることを、ずっと願っていたんだ。
だって、好きな人の幸せを願うのは当たり前だから。
柚葉。
君と過ごした時間は、僕の宝物でした。
そして、君が僕を好きでいてくれたことも。
本当に嬉しかった。
ありがとう。
だから今度は、君が幸せになる番だ。
空を見上げた時、もし少しだけ僕を思い出してくれたら嬉しい。
その時はきっと、
「頑張れ」
って言っているから。
大丈夫。
君ならきっと、また誰かを好きになれる。
そして、その恋は間違いじゃない。
君の未来が、笑顔であふれますように。
愛していました。
碧]
「……碧!!!」
柚葉は我慢していた涙をもう、止めることはできなかった。
「碧、私も愛していました……。でも、もう、新しい好きな人ができちゃった……。ごめんね。でも、それは碧を忘れたんじゃないよ。私は絶対に碧を忘れないから、心配しないでね。碧をいつまでも思ってるから……。私の恋を応援してくれてありがとう……」
また、私は星の宮祭で川口くんが好きだと気づいた。
でも、碧にどんな顔して会えばいいんだろう……。
好きだと気づいてしまった……。だからもう、後戻りできない……。
碧だけを好きでいると決めたのに、川口くんの優しさに触れるたび好きが加速してしまう。
川口諒のことを好きだと気づいた日から、柚葉の心はずっと落ち着かなかった。
文化祭が終わっても、放課後の教室に残っても、あの時の感覚だけが何度も蘇る。
助けられたこと。
見つめられたこと。
「似合ってる」と言われた、たった一言。
それだけで、自分の中にあった何かが崩れてしまった。
幸せなことなのに、私は幸せに感じられない……。
川口くんが好き……。好きなのに……。
碧だけ、好きでいたあのときの自分が今は恋しい……。
どうすればいいのかな? 私……。
碧に謝りたい……。ごめんって……。
こんな気持ちを捨てたい……。
今はただ、碧に会いたい……。
それが“恋”だと気づいてしまった今、私はある場所へ向かっていた。
誰にも言わなかった場所。
何度も足を運んだ場所。
小さな坂道を登った先にある、静かな墓地。
風が少し冷たくて、制服のスカートが揺れる。
柚葉はゆっくりと立ち止まった。
そこにある名前を見るだけで、胸の奥がきゅっと痛くなる。
――碧。
ずっと、伝えられなかった名前。
「……来ちゃった」
誰に言うでもなく、小さく呟く。
手には、小さな花束と、いつも通りの言葉の準備。
でも今日は違った。
いつもみたいに、ただ報告するためじゃない。
誰かのことを好きになってしまったことを、どうしても伝えたくて来た。
墓石の前にしゃがみ込む。
そっと手を合わせる。
「ねえ、碧」
「私……たぶん、人を好きになっちゃった」
声が少し震える。
「ずっと気づかないふりしてたけど……」
「助けてもらったあの日から、ずっと……」
言葉が途切れる。
風が一度だけ強く吹いて、花が揺れた。
そのときだった。
墓石の横、小さな石の隙間に、何か白いものが挟まっているのに気づく。
「……え?」
柚葉はゆっくりと手を伸ばす。
それは、折りたたまれた手紙だった。
少し色あせていて、でも丁寧に保管されている。
自分のものじゃない。
でも、どこか見覚えがあるような気がした。
震える指で、それをそっと開く。
裏には、小さく書かれていた。
――母より。碧の遺した手紙です。
心臓が、一瞬止まる。
「……え」
声にならない声が漏れる。
柚葉は、その場に座り込んだまま、しばらく動けなかった。
どうして。
なんで今。
どうしてここに。
でも、次の瞬間。
なぜか分かってしまう。
これは偶然じゃない。
碧の母が、ずっとここに来ている柚葉のことを知っていて。
ずっと、見ていてくれていて。
だから――今、渡されたんだと。
柚葉の指が、ゆっくりと手紙を握りしめる。
涙が落ちそうになるのを、必死でこらえながら。
「……碧」
小さく、その名前を呼んだ。
そして、静かに手紙を開いた。
[柚葉へ
この手紙を読んでいるということは、きっと僕はもう君の隣にはいないんだと思います。
まず最初に、一つだけ言わせてください。
今までずっと彼女でいてくれてありがとう。
僕のお墓の前で話してくれたこと、実は全部聞いていた気がするんだ。
学校であったこと。
友達のこと。
嬉しかったこと。
悲しかったこと。
柚葉はいつも僕に話しかけてくれたね。
僕は返事ができなかったけれど、その時間がすごく嬉しかった。
だからね、柚葉。
もう謝らなくていいんだよ。
「助けられなくてごめん」
「忘れたらだめな気がする」
そんなこと、ずっと思わなくていい。
僕は君を責めたことなんて、一度もないから。
むしろ、君には笑っていてほしかった。
幸せになってほしかった。
それだけなんだ。
ねえ、柚葉。
君は優しいから、自分の気持ちより誰かを優先してしまうよね。
だから今、これだけはちゃんと伝える。
恋をしてください。
誰かを好きになってください。
その人とたくさん笑ってください。
その人とたくさん話してください。
その人とたくさん思い出を作ってください。
僕のことで立ち止まらないで。
僕を忘れろと言っているわけじゃない。
忘れなくていい。
思い出の中に僕を置いたままでいい。
だけど、その思い出に縛られないでほしい。
君の未来には、まだたくさんの幸せが待っているから。
もし今、君の心の中に誰かがいるなら。
その人を大切にしてあげて。
その恋を怖がらないで。
僕はね。
君が誰かを好きになることを、ずっと願っていたんだ。
だって、好きな人の幸せを願うのは当たり前だから。
柚葉。
君と過ごした時間は、僕の宝物でした。
そして、君が僕を好きでいてくれたことも。
本当に嬉しかった。
ありがとう。
だから今度は、君が幸せになる番だ。
空を見上げた時、もし少しだけ僕を思い出してくれたら嬉しい。
その時はきっと、
「頑張れ」
って言っているから。
大丈夫。
君ならきっと、また誰かを好きになれる。
そして、その恋は間違いじゃない。
君の未来が、笑顔であふれますように。
愛していました。
碧]
「……碧!!!」
柚葉は我慢していた涙をもう、止めることはできなかった。
「碧、私も愛していました……。でも、もう、新しい好きな人ができちゃった……。ごめんね。でも、それは碧を忘れたんじゃないよ。私は絶対に碧を忘れないから、心配しないでね。碧をいつまでも思ってるから……。私の恋を応援してくれてありがとう……」



