「マジかよ!? 聞いてねーんだけど! やべぇ、すぐ行かないと!」
いまから行っても絶対にどやされるし、ペナルティで外周走らされるのは確実だけど、行かないという選択肢はない。
逃げてもムダ。連絡が来ていないと言い訳してもムダ。むしろそれはマイナス。
運動部の上下関係は絶対で、最上級生になるまではどんな理不尽にも黙って素直に従うしかないのだ。
「わりーな奥山! 日誌担任に出しといて!」
「あー、はいはい。いいから早く行きなよ。ペナ増えるよ」
「すまん! あ。お詫びじゃねぇけど、これお前にやるわ」
持っていたサイダーのペットボトルを奥山の机にトンと置いた。
透明なボトルの中で、透明なサイダー液体が波をたて、さらにその中で透明な泡が躍っている。
「まだひとくちしか飲んでねーからさ」
「はあ? いらないって。自分で飲めばいいじゃん」
「これからミーティングのあと外走らされるだろうし、飲めねーだろ。時間経ったらぬるくなるし炭酸も抜けるしまずくなんじゃん? だから奥山飲んどいて!」
「あたしは残飯処理係じゃないんだけど!」
文句を重ねる奥山に強引にペットボトルを押し付けて、鞄を引っ提げ廊下を目指して駆け出した。
「んじゃ! よろしくな~」
まだ背中から文句が聞こえてきたが、いらなければ捨てるだろうと気にせず教室を出て部室へと急ぐ。
あーあ、何周走らされるだろう。だいたい、何で俺にだけミーティングの連絡がこないんだ。嫌がらせか、部活内いじめか、上級生のいびりか。それともただ単に存在を忘れられていただけか。
最後がいちばん悲しいが、いちばん可能性が高い気がする。俺のクラス、俺しか男バス部員がいないし。
グループチャットがあるんだから、それで連絡してくれれば俺だって……。
と、そこまで考えてようやく気付いた俺の足が止まる。
パンパンと両手で身体のあちこちを叩く。が、どこにも目的のあの固い感触がない。
「くっそー。スマホ教室に忘れてきた」


