ある日の夜。
理緒は、一人暮らしの部屋でベッドに寝転がりながらスマホを眺めていた。
アプリの画面を開いては閉じる。
そんな動作を何度も繰り返す。
――今さら、小説なんて……。
ふと、中学校の図書室を思い出した。
あの頃は、本を読むのも書くのも好きだった。
図書室で過ごした日々。
きっと、他の生徒より図書室の思い出は多い。
何より、そこで出会った――藤森先輩。
図書委員の活動を通して知り合い、
図書室から一緒に帰るようになって、
一緒に勉強するようになって、
気付けば、図書室以外でも一緒に過ごす時間が増えていた。
あの頃は、恋なんて分からなくて。
怖くて。
踏み込めなくて――
踏み込めないまま、終わってしまった。
あの日の決断が、間違っていたことを、大人になった今なら分かる。
分からないなら、もっと聞けば良かった。
もっと先輩を信じれば良かった。
もっと、自分の気持ちを大切にすれば良かった。
ずっと押し込めていた感情が、堰を切ったように溢れ出す。
涙でスマホの画面が滲む。
それでも、指先は動き出す。
―――
その日。
理緒は誠さんの部屋でアプリのチェックをしていた。
β版テスターのログを確認する。
「昌大さんに教えてもらったとおり見たんですけど、バグとか、変な使い方の履歴はなさそうです」
「理緒ちゃん、チェックありがとう」
「どういたしまして」
そう返しながら、自分のアカウント画面で手を止める。
ポートフォリオ欄に、未公開の作品が一つ保存されていた。
少し迷ってから、小さな声で話しかける。
「……昌大さん」
「ん? 理緒ちゃん、どうした?」
「あの、私……小説を書くのが趣味で……」
「そうなの?」
「はい……このアプリで公開してもいいですか?」
「え? もちろん。そのためのアプリだし」
昌大さんは嬉しそうに笑った。
「ポートフォリオに作品を載せてくれる人が増えたら、交流も生まれるし、アプリも賑わうからね」
そう言いながら、タブレットを操作して画面を見せる。
「ほら、この子とか。β版なのに、もうこんなに活用してくれてるんだよ。しかも、この色使いすごくない? センス良すぎて惚れそう」
いつもより少し早口な昌大さんに、理緒は思わずクスッと笑った。
画面を覗き込むと、そこには見覚えのある作品が並んでいた。
「これ……まみちゃんの作品です」
「まみちゃんって、理緒ちゃんのお友達?」
「はい」
「その子、会えない?」
昌大さんは勢いよく身を乗り出す。
「……驚かせてごめん。いや、今の完全にナンパみたいだったね。でも、そうじゃなくて……ウチのアプリのデザイン頼めないかなって。自分のセンスに限界感じてて……」
慌てる昌大さんに、理緒は小さく笑った。
「今度、まみちゃんに聞いてみますね」
「ありがとう! ……あ、理緒ちゃんの小説も楽しみにしてるよ」
「楽しみにされると、ちょっと恥ずかしいです」
「何が楽しみで、何が恥ずかしいの?」
不意に、誠さんが会話へ入ってくる。
「別に……」
理緒が誤魔化そうとした時、昌大さんが先に答えた。
「アプリで理緒ちゃんが小説を書いてくれるんだって」
「へぇ。面白そうじゃん。どんな話?」
「……恋愛小説です。悲恋の」
「……ふぅん。実話?」
「そ、そんなわけないじゃないですか!」
誠さんは小さく笑った。
「……ふぅん。……その主人公の次の恋は、上手くいくといいな」
「……そうですね」
理緒は一瞬だけ視線を落とし、それから顔を上げた。
「……そうだ。そんなことより」
誠さんを見る。
少しだけ背筋を伸ばして。
「ん?」
「私、誠さんと一緒に起業したいです」
誠さんは、どこか当然みたいな顔で笑いながら答えた。
「もう、してるだろ」
理緒は、一人暮らしの部屋でベッドに寝転がりながらスマホを眺めていた。
アプリの画面を開いては閉じる。
そんな動作を何度も繰り返す。
――今さら、小説なんて……。
ふと、中学校の図書室を思い出した。
あの頃は、本を読むのも書くのも好きだった。
図書室で過ごした日々。
きっと、他の生徒より図書室の思い出は多い。
何より、そこで出会った――藤森先輩。
図書委員の活動を通して知り合い、
図書室から一緒に帰るようになって、
一緒に勉強するようになって、
気付けば、図書室以外でも一緒に過ごす時間が増えていた。
あの頃は、恋なんて分からなくて。
怖くて。
踏み込めなくて――
踏み込めないまま、終わってしまった。
あの日の決断が、間違っていたことを、大人になった今なら分かる。
分からないなら、もっと聞けば良かった。
もっと先輩を信じれば良かった。
もっと、自分の気持ちを大切にすれば良かった。
ずっと押し込めていた感情が、堰を切ったように溢れ出す。
涙でスマホの画面が滲む。
それでも、指先は動き出す。
―――
その日。
理緒は誠さんの部屋でアプリのチェックをしていた。
β版テスターのログを確認する。
「昌大さんに教えてもらったとおり見たんですけど、バグとか、変な使い方の履歴はなさそうです」
「理緒ちゃん、チェックありがとう」
「どういたしまして」
そう返しながら、自分のアカウント画面で手を止める。
ポートフォリオ欄に、未公開の作品が一つ保存されていた。
少し迷ってから、小さな声で話しかける。
「……昌大さん」
「ん? 理緒ちゃん、どうした?」
「あの、私……小説を書くのが趣味で……」
「そうなの?」
「はい……このアプリで公開してもいいですか?」
「え? もちろん。そのためのアプリだし」
昌大さんは嬉しそうに笑った。
「ポートフォリオに作品を載せてくれる人が増えたら、交流も生まれるし、アプリも賑わうからね」
そう言いながら、タブレットを操作して画面を見せる。
「ほら、この子とか。β版なのに、もうこんなに活用してくれてるんだよ。しかも、この色使いすごくない? センス良すぎて惚れそう」
いつもより少し早口な昌大さんに、理緒は思わずクスッと笑った。
画面を覗き込むと、そこには見覚えのある作品が並んでいた。
「これ……まみちゃんの作品です」
「まみちゃんって、理緒ちゃんのお友達?」
「はい」
「その子、会えない?」
昌大さんは勢いよく身を乗り出す。
「……驚かせてごめん。いや、今の完全にナンパみたいだったね。でも、そうじゃなくて……ウチのアプリのデザイン頼めないかなって。自分のセンスに限界感じてて……」
慌てる昌大さんに、理緒は小さく笑った。
「今度、まみちゃんに聞いてみますね」
「ありがとう! ……あ、理緒ちゃんの小説も楽しみにしてるよ」
「楽しみにされると、ちょっと恥ずかしいです」
「何が楽しみで、何が恥ずかしいの?」
不意に、誠さんが会話へ入ってくる。
「別に……」
理緒が誤魔化そうとした時、昌大さんが先に答えた。
「アプリで理緒ちゃんが小説を書いてくれるんだって」
「へぇ。面白そうじゃん。どんな話?」
「……恋愛小説です。悲恋の」
「……ふぅん。実話?」
「そ、そんなわけないじゃないですか!」
誠さんは小さく笑った。
「……ふぅん。……その主人公の次の恋は、上手くいくといいな」
「……そうですね」
理緒は一瞬だけ視線を落とし、それから顔を上げた。
「……そうだ。そんなことより」
誠さんを見る。
少しだけ背筋を伸ばして。
「ん?」
「私、誠さんと一緒に起業したいです」
誠さんは、どこか当然みたいな顔で笑いながら答えた。
「もう、してるだろ」



