誠さんがカフェへ入ってくる。
兄が手を振って合図すると、誠さんは気怠げな足取りのまま席へやって来た。
「お、終わった?」
「うん。今ちょうど」
誠さんは理緒の隣へ自然に腰を下ろす。
距離が近い。
理緒が少しだけ身体を引くと、誠さんは気にした様子もなくテーブルへ肘をついた。
まず口を開いたのは兄だった。
「……やっぱり、仲良いんだね」
「良いってほどじゃないよ。普通の友達だよ」
理緒がそう言うと、誠さんが肩をすくめた。
「そうそう。俺、神崎さんの大学の友達第一号らしいぜ」
兄は、理緒と誠さんのやり取りを不思議そうに見比べる。
「へぇ。学年も違うのに?」
「それは……誠さんが新入生の頃に変な感じで声掛けてきたから……」
「変な感じ?」
誠さんは平然と答える。
「なんか見たことある顔だなって。達也の妹って、その時は思い出してなかったけど」
「いや、急に『起業興味ない?』って聞かれて、普通に怖かったんですよ?」
「まぁまぁ。結果的に友達になったし」
「それも、誠さんが勝手に“友達第一号”って言ってるだけじゃないですか」
テンポよく言い合う二人を見て、兄は小さく目を瞬かせた。
「……やっぱり、かなり仲良くないか?」
「お兄ちゃん、だから違うってば」
誠さんはそこで、わざとらしくため息を吐いた。
「達也はシスコン過ぎるから、嫉妬してんだよ」
「誠っ……それ、さっき理緒も言ってたけど、どういうことだよ! 何を妹に吹き込んでるんだ?」
「は? 事実だろ」
「いや、普通に妹を大事にしてるだけだろ?」
「妹を大事にしてるだけで、普段会えてない妹の話ばっかしねぇよ」
「会えないからこそ話しただけだろ」
「部屋に写真まで飾ってたし」
兄は一瞬言葉に詰まり、それから反論する。
「……家族写真だろ」
「じゃあ、お前、俺の弟の顔知ってるか?」
兄は少し考えてから、拍子抜けしたように返した。
「……お前、弟いたのか?」
「それが普通なんだよ」
「いや、でも……だからって、僕がシスコンってわけでは……」
誠さんは呆れたように息を吐く。
そして、不意に理緒の頭へ手を置いた。
「ひゃっ?」
理緒は驚いて肩を跳ねさせる。
兄は思わず立ち上がった。
「おい」
誠さんはしたり顔で笑う。
「大学生の妹に男友達がこれくらいしただけで、本気で警戒してる時点で重いんだって」
「は?」
兄の視線が誠さんの手へ向く。
誠さんは面白そうに、わしゃわしゃと理緒の頭を撫でた。
「ちょっと……やめてください」
「はいはい」
誠さんはあっさり手を離す。
けれど兄は、さっきまでの勢いが少しだけ消えていた。
「……なんか、違う気がするぞ」
「はぁ?」
「いや……」
兄はじっと誠を見る。
「お前、理緒に変な気起こすなよ?」
「は? 起こさねぇよ」
返答は早かった。
迷いはない。
けれど、
兄はなぜか、逆に眉をひそめる。
「……自分でも気付いてないのか?」
「なんだよ、その確認」
「いや、お前、昔そういう距離感のやつじゃなかっただろ」
「状況によるだろ」
「今じゃないだろ」
「ちょっと、お兄ちゃん!? 誠さんも……どういう話してるの!?」
理緒だけが、二人の会話についていけず困惑していた。
そんな理緒を見て、兄は小さく頭を抱える。
「……理緒、お前はもうちょっと警戒心持て」
「なんで私が怒られてるの?」
誠さんはそのやり取りを見ながら、小さく笑った。
「達也、完全に保護者じゃん」
「うるさい」
---
別の日。
理緒は、まみちゃんと夕食を食べていた。
「りっちゃん、お兄さんと仲直りできて良かったね」
「まみちゃんのおかげだよ」
「そんな……私は大したことしてないよ」
「うぅん。まみちゃんが、『お兄ちゃんも人間』って教えてくれたから。私、ずっと……私だけがお兄ちゃんに嫌われてるって思い込んでたの」
理緒は小さく息を吐く。
「でもね、お兄ちゃんも、私に嫌われてると思ってたみたい。そんなわけないのにね」
まみちゃんは、ふっと優しく笑った。
「そうだね。りっちゃん、本当にお兄さんっ子だったもんね」
「……やっぱり、まみちゃんに話して良かった。まみちゃんと話すと、すごく安心する」
「私も。りっちゃんといると、なんか落ち着く」
その言葉に、理緒は少しだけ肩の力が抜けた。
すると、まみちゃんが少し迷うように視線を落とす。
「……実はね、私も、りっちゃんと再会した頃、結構荒んでたんだ」
「えぇ!? 気付かなくてごめんね」
「うぅん。りっちゃんが昔と変わらず接してくれたの、嬉しかったんだ」
「そう、だったんだ」
「うん。私の専攻、デジタルデザインだから、周りクリエイター気質の人ばっかりでさ。みんなすごいし、ちょっとホームシックにもなってて……いろいろ…ね」
「そっか……」
理緒は小さく頷く。
すると、まみちゃんが少し明るい声を出した。
「あ、でも、りっちゃん達が作ってるアプリ、あれ本当に便利だよ! 正式リリースされたら使いたいって言ってる子、結構いるし」
「えっ!? 本当!?」
理緒は思わず身を乗り出す。
「……作ってるのは誠さん達だけど……」
「でも、りっちゃんも関わってるんでしょ?」
「まぁ……ちょっとだけ」
「このポートフォリオ機能、すごく使いやすいんだよ。私も色々まとめてみたの。ほら」
そう言って、まみちゃんはスマホの画面を見せてくれる。
そこには、デザイン作品が綺麗に整理されたページが映っていた。
「えっ……まみちゃん、こんなの作れるの?」
「いやいや、まだまだだよ。でも、作品整理しやすいし、今後利用者が増えたら交流も生まれそうだし、クリエイター系の学生には結構需要あると思う」
「そっか……。そういう使い方、ちゃんと需要あるんだね」
「あるある。りっちゃんも使えばいいのに」
「え?」
「昔、小説書いてたじゃん。載せちゃえば?」
「えぇ!? もう書いてないし……みんなに見せるなんて恥ずかしいよ」
「えー? 私はりっちゃんの小説好きだったから、また読みたいな」
理緒は少し照れたように視線を逸らす。
「……うーん。ちょっと、考えてみる……」
兄が手を振って合図すると、誠さんは気怠げな足取りのまま席へやって来た。
「お、終わった?」
「うん。今ちょうど」
誠さんは理緒の隣へ自然に腰を下ろす。
距離が近い。
理緒が少しだけ身体を引くと、誠さんは気にした様子もなくテーブルへ肘をついた。
まず口を開いたのは兄だった。
「……やっぱり、仲良いんだね」
「良いってほどじゃないよ。普通の友達だよ」
理緒がそう言うと、誠さんが肩をすくめた。
「そうそう。俺、神崎さんの大学の友達第一号らしいぜ」
兄は、理緒と誠さんのやり取りを不思議そうに見比べる。
「へぇ。学年も違うのに?」
「それは……誠さんが新入生の頃に変な感じで声掛けてきたから……」
「変な感じ?」
誠さんは平然と答える。
「なんか見たことある顔だなって。達也の妹って、その時は思い出してなかったけど」
「いや、急に『起業興味ない?』って聞かれて、普通に怖かったんですよ?」
「まぁまぁ。結果的に友達になったし」
「それも、誠さんが勝手に“友達第一号”って言ってるだけじゃないですか」
テンポよく言い合う二人を見て、兄は小さく目を瞬かせた。
「……やっぱり、かなり仲良くないか?」
「お兄ちゃん、だから違うってば」
誠さんはそこで、わざとらしくため息を吐いた。
「達也はシスコン過ぎるから、嫉妬してんだよ」
「誠っ……それ、さっき理緒も言ってたけど、どういうことだよ! 何を妹に吹き込んでるんだ?」
「は? 事実だろ」
「いや、普通に妹を大事にしてるだけだろ?」
「妹を大事にしてるだけで、普段会えてない妹の話ばっかしねぇよ」
「会えないからこそ話しただけだろ」
「部屋に写真まで飾ってたし」
兄は一瞬言葉に詰まり、それから反論する。
「……家族写真だろ」
「じゃあ、お前、俺の弟の顔知ってるか?」
兄は少し考えてから、拍子抜けしたように返した。
「……お前、弟いたのか?」
「それが普通なんだよ」
「いや、でも……だからって、僕がシスコンってわけでは……」
誠さんは呆れたように息を吐く。
そして、不意に理緒の頭へ手を置いた。
「ひゃっ?」
理緒は驚いて肩を跳ねさせる。
兄は思わず立ち上がった。
「おい」
誠さんはしたり顔で笑う。
「大学生の妹に男友達がこれくらいしただけで、本気で警戒してる時点で重いんだって」
「は?」
兄の視線が誠さんの手へ向く。
誠さんは面白そうに、わしゃわしゃと理緒の頭を撫でた。
「ちょっと……やめてください」
「はいはい」
誠さんはあっさり手を離す。
けれど兄は、さっきまでの勢いが少しだけ消えていた。
「……なんか、違う気がするぞ」
「はぁ?」
「いや……」
兄はじっと誠を見る。
「お前、理緒に変な気起こすなよ?」
「は? 起こさねぇよ」
返答は早かった。
迷いはない。
けれど、
兄はなぜか、逆に眉をひそめる。
「……自分でも気付いてないのか?」
「なんだよ、その確認」
「いや、お前、昔そういう距離感のやつじゃなかっただろ」
「状況によるだろ」
「今じゃないだろ」
「ちょっと、お兄ちゃん!? 誠さんも……どういう話してるの!?」
理緒だけが、二人の会話についていけず困惑していた。
そんな理緒を見て、兄は小さく頭を抱える。
「……理緒、お前はもうちょっと警戒心持て」
「なんで私が怒られてるの?」
誠さんはそのやり取りを見ながら、小さく笑った。
「達也、完全に保護者じゃん」
「うるさい」
---
別の日。
理緒は、まみちゃんと夕食を食べていた。
「りっちゃん、お兄さんと仲直りできて良かったね」
「まみちゃんのおかげだよ」
「そんな……私は大したことしてないよ」
「うぅん。まみちゃんが、『お兄ちゃんも人間』って教えてくれたから。私、ずっと……私だけがお兄ちゃんに嫌われてるって思い込んでたの」
理緒は小さく息を吐く。
「でもね、お兄ちゃんも、私に嫌われてると思ってたみたい。そんなわけないのにね」
まみちゃんは、ふっと優しく笑った。
「そうだね。りっちゃん、本当にお兄さんっ子だったもんね」
「……やっぱり、まみちゃんに話して良かった。まみちゃんと話すと、すごく安心する」
「私も。りっちゃんといると、なんか落ち着く」
その言葉に、理緒は少しだけ肩の力が抜けた。
すると、まみちゃんが少し迷うように視線を落とす。
「……実はね、私も、りっちゃんと再会した頃、結構荒んでたんだ」
「えぇ!? 気付かなくてごめんね」
「うぅん。りっちゃんが昔と変わらず接してくれたの、嬉しかったんだ」
「そう、だったんだ」
「うん。私の専攻、デジタルデザインだから、周りクリエイター気質の人ばっかりでさ。みんなすごいし、ちょっとホームシックにもなってて……いろいろ…ね」
「そっか……」
理緒は小さく頷く。
すると、まみちゃんが少し明るい声を出した。
「あ、でも、りっちゃん達が作ってるアプリ、あれ本当に便利だよ! 正式リリースされたら使いたいって言ってる子、結構いるし」
「えっ!? 本当!?」
理緒は思わず身を乗り出す。
「……作ってるのは誠さん達だけど……」
「でも、りっちゃんも関わってるんでしょ?」
「まぁ……ちょっとだけ」
「このポートフォリオ機能、すごく使いやすいんだよ。私も色々まとめてみたの。ほら」
そう言って、まみちゃんはスマホの画面を見せてくれる。
そこには、デザイン作品が綺麗に整理されたページが映っていた。
「えっ……まみちゃん、こんなの作れるの?」
「いやいや、まだまだだよ。でも、作品整理しやすいし、今後利用者が増えたら交流も生まれそうだし、クリエイター系の学生には結構需要あると思う」
「そっか……。そういう使い方、ちゃんと需要あるんだね」
「あるある。りっちゃんも使えばいいのに」
「え?」
「昔、小説書いてたじゃん。載せちゃえば?」
「えぇ!? もう書いてないし……みんなに見せるなんて恥ずかしいよ」
「えー? 私はりっちゃんの小説好きだったから、また読みたいな」
理緒は少し照れたように視線を逸らす。
「……うーん。ちょっと、考えてみる……」



