ある日の大学からの帰り道。
最寄り駅の改札を出たところで、不意に声を掛けられた。
「りっちゃん?」
――りっちゃん?
誰だろう。
理緒は足を止めて振り返る。
そこに立っていたのは、同年代の、見覚えがあるようなないような女性だった。
理緒が戸惑っていると、相手が先に笑う。
「あたし、真美子だよ。小学校で一緒だった」
「えっ……まみちゃん!?」
理緒は思わず目を見開いた。
「久しぶり! ごめん、全然分からなかった」
「ううん。自分でも変わった自覚あるし」
まみちゃんは笑いながら肩をすくめる。
「りっちゃんは変わらないね」
「そう……かな?」
「あ、でも大人っぽくはなってるよ? ただ、昔から大人っぽかったから」
「気付いてくれてありがと」
「ううん。今、帰り?」
「うん。大学の帰り。ここ、家の最寄り駅なんだ」
「えっ、偶然! 私もここ最寄り」
「そうなんだ。じゃあ、今度ご飯でも食べない?」
理緒がそう言った瞬間、まみちゃんは目を輝かせ、少し前のめり気味に言う。
「今度どころか、私は今日でもいいよ!りっちゃんともっと話したい」
「……私も、今日でも大丈夫」
「じゃあ行こ。そこのファミレスでいい?」
「あ、うん」
二人はそのまま駅前のファミレスへ入った。
最寄り駅なのに、理緒は一度も入ったことがない店だった。
まみちゃんは慣れた様子で席へ向かう。
「あんまりお腹空いてないし、軽めにしよっと」
「……お腹空いてないのに、ごめんね」
「違う違う」
まみちゃんは慌てたように手を振った。
「昼食べすぎたから、元々夜は軽めにするつもりだったの」
そう言って、まみちゃんはミニドリアとサラダを注文する。
理緒はミートソーススパゲッティを頼んだ。
「転校して以来だから……七年ぶりくらい?」
「そうだね。最初の頃は連絡してたけど、途中で途切れちゃったね」
「まぁ、学校違うと全然会えないしね。小学生には結構大きかった」
「そうだね。子どものうちって、世界が狭いから」
「分かる」
まみちゃんは頷きながら、水を一口飲む。
「りっちゃん、今は一人暮らし?」
「うん。実家から通えなくはなかったんだけど、一回してみたくて」
「“してみたい”で家出られるの、やっぱお嬢様だなぁ」
「やめてよ。“お嬢様”って」
「いやいや、事実じゃん。パパさん会社やってて、将来はりっちゃんかお兄さんが継ぐんでしょ?」
「……私は継がないかな」
「えー!? そうなの?」
まみちゃんは意外そうに目を丸くした。
「女社長とか、普通にかっこいいと思ってたのに」
「お兄ちゃんが継ぐと思う」
「お兄さんも優秀だったもんねぇ。かっこよくて、勉強できて、優しくて……理想のお兄ちゃんって感じ」
「そんな……理想だなんて」
「お兄さん、今も元気?」
「……うん。元気みたい。今、海外留学中だけど」
「海外留学!? やっぱすごいなぁ」
「そんな言うほどじゃないよ」
そう返した時。
まみちゃんが、ふと理緒の顔を見つめた。
「……なんか、りっちゃん、少し変わったね」
「え?」
「前だったら、“うん。自慢のお兄ちゃんなの”って感じだったから」
理緒は一瞬、言葉を失う。
「……そうかな?」
「うん。昔、すごいお兄ちゃんっ子だったよね」
「まぁ……お互い思春期になったし」
「うーん……なんか、そういう感じとも違う気がするんだよね」
まみちゃんは少し迷うように言った。
「……お兄さんと、何かあった?」
「……え……」
理緒は言葉に詰まる。
自分でも上手く説明できない。
何がきっかけだったのか。
どうして、あんなふうになってしまったのか。
まみちゃんは、そんな理緒を見て、小さく笑った。
「……言いにくかったら、無理に話さなくていいよ」
その声音は、とても柔らかかった。
「でも、一人で抱え込みすぎないでね」
理緒は少しだけ目を伏せる。
それから、小さく頷いた。
「……うん。ありがと」
その後は、連絡先を交換して、大学のことや昔の同級生の話をしながら過ごした。
帰り道。
理緒は、どこか胸の奥が温かいことに気付く。
昔の自分を知っている人。
何も説明しなくても、少しの違和感に気付いてくれる人。
――味方が増えたみたい。
そんな小さな安心感が、理緒の心をじんわりと温めていた。
---
それから、理緒は時々、まみちゃんと夕食を食べるようになっていた。
ある日の夕食中。
理緒のスマホに着信が入る。
――誠さんからだ。
理緒はまみちゃんに断って、席を立ちながら電話に出た。
「はい」
誠さんは開口一番、いつもの調子で言う。
『今から来れる?』
「すみません。今、家の近くで友達と食事中です」
『……友達できたんだ。おめでとう』
「違います。小学校の友達です。たまたま再会して」
『……ふぅん。誰?』
「誰って……岸田真美子ちゃんです」
『あぁ……聞き覚えあるな』
少し間を置いてから、誠さんはさらりと言った。
『今から行く』
「えぇ!? ちょっ――」
そこで電話は切れた。
理緒はスマホを見つめ、小さくため息を吐く。
席へ戻ると、まみちゃんが不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの?」
「ごめん。大学の先輩が、こっち来るって」
「へぇ。彼氏?」
「全然違うよ!!」
理緒は反射的に否定する。
「なんか、まみちゃんのこと知ってるっぽかった。お兄ちゃんの友達だから、小学校はまみちゃんも同じなんだけど……」
「誰?」
「佐藤、誠……さん」
「あぁ……縦割り班で一緒だったかも?」
まみちゃんは少し考えるように視線を上げる。
「なんだかんだ面倒見いい人……だったかな?」
「よく覚えてるね」
「人の顔と名前覚えるの得意なんだ」
「でも、待たせる形になっちゃうけど平気?」
「私は大丈夫」
「ありがと」
そうして食事を続けていると、再び誠さんから着信が入る。
「はい」
誠さんは短く尋ねる。
『駅前着いた。どこ?』
「……駅前のファミレスです」
『分かった』
短いやり取りで電話が切れる。
数分後。
「あの人じゃない?」
まみちゃんが入口の方を見ながら言った。
「え? あ……うん」
理緒が振り返ると、誠さんが店内へ入ってくるところだった。
まみちゃんは立ち上がって、軽く手を振る。
誠さんは二人の席へ近付くと、いつもより少し爽やかな笑顔で口を開いた。
「こんばんは」
「こんばんは。お久しぶりです」
「俺のこと覚えてるの?」
「はい。縦割り班で一緒でしたよね」
「あぁ……多分。ごめん、俺あんまり覚えてないや」
「そうですよね。私、結構変わったので」
理緒は呆れたように口を挟む。
「……で、何しに来たんですか?」
誠さんはその言葉を聞き流すように、理緒を奥側へずらして隣に座った。
それから、まみちゃんへ向き直る。
「実は今、神崎さんと一緒に学生向けのコミュニティ支援アプリ作ってて」
そう言いながら、鞄からQRコード付きのチラシを取り出してテーブルへ置く。
そのままタブレット端末で、カレーライスの温玉トッピングを注文した。
「りっちゃん、そうなの!?」
「いや、私は――」
理緒が否定しかける。
けれど、その声を遮るように、誠さんは続けた。
「今、β版のテスター探してるんだ。よかったら使ってみてくれない?」
まみちゃんはチラシを手に取り、じっくりと読み始める。
しばらくして、誠さんの頼んだカレーが運ばれてきた。
「へぇ……面白そう。ポートフォリオも作れるんだ」
誠さんはスプーンを手に取りながら頷く。
「作りたい学生、多いかなって。作品載せたり、意見交換できたり」
「私、デジタルデザイン専攻だから助かります。使ってみますね」
「それは俺たちも助かる」
「俺たちじゃなくて……」
理緒は不満そうに口を尖らせた。
「私は起業には協力しないって言ってるじゃないですか」
誠さんは当然みたいに返す。
「もうしてるだろ」
「あれは、トラブルになるって分かってて放っておけないというか……」
「だから協力してるんだろ?」
「そうじゃなくて……」
理緒は言葉に詰まる。
すると、まみちゃんがふっと笑った。
「今日のりっちゃん、今までで一番“昔のりっちゃん”っぽいかも」
「……え?」
「なんか、りっちゃんって昔から落ち着いてたじゃん?」
「……うん?」
「でも、真剣になると急にムキになるの。今、すごい懐かしい」
「……私、そんなムキになってない」
誠さんが、横から即座に口を挟む。
「なってるだろ」
「誠さんは黙っててください」
理緒がぴしゃりと言い返すと、まみちゃんが楽しそうに笑った。
「仲いいんだね」
「良くない!」
すると誠さんは、どこか面白がるように笑う。
「いや、俺、神崎さんの大学の友達第一号だし」
「……それは、そうですけど……」
理緒は納得いかない顔で誠さんを睨む。
けれど誠さんは気にした様子もなく、カレーを食べながら続けた。
「あと、俺、神崎さんの兄貴の友達なんだ」
「さっき、りっちゃんから聞きました」
「うん」
やがて食べ終えた誠さんは、水を飲み干して「ごちそうさま」と呟いた。
そのまま千円札をテーブルへ置く。
「友達と団欒してるとこ邪魔して悪かったな」
そして、まみちゃんへ視線を向ける。
「岸田さん、テスターの件よろしく」
それだけ言うと、誠さんはあっさり席を立って店を出ていった。
静かになった席で、まみちゃんが感心したように口を開く。
「りっちゃん、アプリ開発なんてやってるんだ。すごいね」
「だから、違うってば!」
「ふふっ」
まみちゃんは楽しそうに笑う。
「なんか、しゃべり方も昔に戻ったね」
「え……そう?」
「うん。いいと思う」
理緒は少しだけ戸惑いながら、手元のグラスを見つめた。
「……そうかな」
---
その日の深夜。
誠のスマホに着信が入る。
――誰だ?
画面を見ると、そこには「神崎達也」の文字が表示されていた。
最寄り駅の改札を出たところで、不意に声を掛けられた。
「りっちゃん?」
――りっちゃん?
誰だろう。
理緒は足を止めて振り返る。
そこに立っていたのは、同年代の、見覚えがあるようなないような女性だった。
理緒が戸惑っていると、相手が先に笑う。
「あたし、真美子だよ。小学校で一緒だった」
「えっ……まみちゃん!?」
理緒は思わず目を見開いた。
「久しぶり! ごめん、全然分からなかった」
「ううん。自分でも変わった自覚あるし」
まみちゃんは笑いながら肩をすくめる。
「りっちゃんは変わらないね」
「そう……かな?」
「あ、でも大人っぽくはなってるよ? ただ、昔から大人っぽかったから」
「気付いてくれてありがと」
「ううん。今、帰り?」
「うん。大学の帰り。ここ、家の最寄り駅なんだ」
「えっ、偶然! 私もここ最寄り」
「そうなんだ。じゃあ、今度ご飯でも食べない?」
理緒がそう言った瞬間、まみちゃんは目を輝かせ、少し前のめり気味に言う。
「今度どころか、私は今日でもいいよ!りっちゃんともっと話したい」
「……私も、今日でも大丈夫」
「じゃあ行こ。そこのファミレスでいい?」
「あ、うん」
二人はそのまま駅前のファミレスへ入った。
最寄り駅なのに、理緒は一度も入ったことがない店だった。
まみちゃんは慣れた様子で席へ向かう。
「あんまりお腹空いてないし、軽めにしよっと」
「……お腹空いてないのに、ごめんね」
「違う違う」
まみちゃんは慌てたように手を振った。
「昼食べすぎたから、元々夜は軽めにするつもりだったの」
そう言って、まみちゃんはミニドリアとサラダを注文する。
理緒はミートソーススパゲッティを頼んだ。
「転校して以来だから……七年ぶりくらい?」
「そうだね。最初の頃は連絡してたけど、途中で途切れちゃったね」
「まぁ、学校違うと全然会えないしね。小学生には結構大きかった」
「そうだね。子どものうちって、世界が狭いから」
「分かる」
まみちゃんは頷きながら、水を一口飲む。
「りっちゃん、今は一人暮らし?」
「うん。実家から通えなくはなかったんだけど、一回してみたくて」
「“してみたい”で家出られるの、やっぱお嬢様だなぁ」
「やめてよ。“お嬢様”って」
「いやいや、事実じゃん。パパさん会社やってて、将来はりっちゃんかお兄さんが継ぐんでしょ?」
「……私は継がないかな」
「えー!? そうなの?」
まみちゃんは意外そうに目を丸くした。
「女社長とか、普通にかっこいいと思ってたのに」
「お兄ちゃんが継ぐと思う」
「お兄さんも優秀だったもんねぇ。かっこよくて、勉強できて、優しくて……理想のお兄ちゃんって感じ」
「そんな……理想だなんて」
「お兄さん、今も元気?」
「……うん。元気みたい。今、海外留学中だけど」
「海外留学!? やっぱすごいなぁ」
「そんな言うほどじゃないよ」
そう返した時。
まみちゃんが、ふと理緒の顔を見つめた。
「……なんか、りっちゃん、少し変わったね」
「え?」
「前だったら、“うん。自慢のお兄ちゃんなの”って感じだったから」
理緒は一瞬、言葉を失う。
「……そうかな?」
「うん。昔、すごいお兄ちゃんっ子だったよね」
「まぁ……お互い思春期になったし」
「うーん……なんか、そういう感じとも違う気がするんだよね」
まみちゃんは少し迷うように言った。
「……お兄さんと、何かあった?」
「……え……」
理緒は言葉に詰まる。
自分でも上手く説明できない。
何がきっかけだったのか。
どうして、あんなふうになってしまったのか。
まみちゃんは、そんな理緒を見て、小さく笑った。
「……言いにくかったら、無理に話さなくていいよ」
その声音は、とても柔らかかった。
「でも、一人で抱え込みすぎないでね」
理緒は少しだけ目を伏せる。
それから、小さく頷いた。
「……うん。ありがと」
その後は、連絡先を交換して、大学のことや昔の同級生の話をしながら過ごした。
帰り道。
理緒は、どこか胸の奥が温かいことに気付く。
昔の自分を知っている人。
何も説明しなくても、少しの違和感に気付いてくれる人。
――味方が増えたみたい。
そんな小さな安心感が、理緒の心をじんわりと温めていた。
---
それから、理緒は時々、まみちゃんと夕食を食べるようになっていた。
ある日の夕食中。
理緒のスマホに着信が入る。
――誠さんからだ。
理緒はまみちゃんに断って、席を立ちながら電話に出た。
「はい」
誠さんは開口一番、いつもの調子で言う。
『今から来れる?』
「すみません。今、家の近くで友達と食事中です」
『……友達できたんだ。おめでとう』
「違います。小学校の友達です。たまたま再会して」
『……ふぅん。誰?』
「誰って……岸田真美子ちゃんです」
『あぁ……聞き覚えあるな』
少し間を置いてから、誠さんはさらりと言った。
『今から行く』
「えぇ!? ちょっ――」
そこで電話は切れた。
理緒はスマホを見つめ、小さくため息を吐く。
席へ戻ると、まみちゃんが不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの?」
「ごめん。大学の先輩が、こっち来るって」
「へぇ。彼氏?」
「全然違うよ!!」
理緒は反射的に否定する。
「なんか、まみちゃんのこと知ってるっぽかった。お兄ちゃんの友達だから、小学校はまみちゃんも同じなんだけど……」
「誰?」
「佐藤、誠……さん」
「あぁ……縦割り班で一緒だったかも?」
まみちゃんは少し考えるように視線を上げる。
「なんだかんだ面倒見いい人……だったかな?」
「よく覚えてるね」
「人の顔と名前覚えるの得意なんだ」
「でも、待たせる形になっちゃうけど平気?」
「私は大丈夫」
「ありがと」
そうして食事を続けていると、再び誠さんから着信が入る。
「はい」
誠さんは短く尋ねる。
『駅前着いた。どこ?』
「……駅前のファミレスです」
『分かった』
短いやり取りで電話が切れる。
数分後。
「あの人じゃない?」
まみちゃんが入口の方を見ながら言った。
「え? あ……うん」
理緒が振り返ると、誠さんが店内へ入ってくるところだった。
まみちゃんは立ち上がって、軽く手を振る。
誠さんは二人の席へ近付くと、いつもより少し爽やかな笑顔で口を開いた。
「こんばんは」
「こんばんは。お久しぶりです」
「俺のこと覚えてるの?」
「はい。縦割り班で一緒でしたよね」
「あぁ……多分。ごめん、俺あんまり覚えてないや」
「そうですよね。私、結構変わったので」
理緒は呆れたように口を挟む。
「……で、何しに来たんですか?」
誠さんはその言葉を聞き流すように、理緒を奥側へずらして隣に座った。
それから、まみちゃんへ向き直る。
「実は今、神崎さんと一緒に学生向けのコミュニティ支援アプリ作ってて」
そう言いながら、鞄からQRコード付きのチラシを取り出してテーブルへ置く。
そのままタブレット端末で、カレーライスの温玉トッピングを注文した。
「りっちゃん、そうなの!?」
「いや、私は――」
理緒が否定しかける。
けれど、その声を遮るように、誠さんは続けた。
「今、β版のテスター探してるんだ。よかったら使ってみてくれない?」
まみちゃんはチラシを手に取り、じっくりと読み始める。
しばらくして、誠さんの頼んだカレーが運ばれてきた。
「へぇ……面白そう。ポートフォリオも作れるんだ」
誠さんはスプーンを手に取りながら頷く。
「作りたい学生、多いかなって。作品載せたり、意見交換できたり」
「私、デジタルデザイン専攻だから助かります。使ってみますね」
「それは俺たちも助かる」
「俺たちじゃなくて……」
理緒は不満そうに口を尖らせた。
「私は起業には協力しないって言ってるじゃないですか」
誠さんは当然みたいに返す。
「もうしてるだろ」
「あれは、トラブルになるって分かってて放っておけないというか……」
「だから協力してるんだろ?」
「そうじゃなくて……」
理緒は言葉に詰まる。
すると、まみちゃんがふっと笑った。
「今日のりっちゃん、今までで一番“昔のりっちゃん”っぽいかも」
「……え?」
「なんか、りっちゃんって昔から落ち着いてたじゃん?」
「……うん?」
「でも、真剣になると急にムキになるの。今、すごい懐かしい」
「……私、そんなムキになってない」
誠さんが、横から即座に口を挟む。
「なってるだろ」
「誠さんは黙っててください」
理緒がぴしゃりと言い返すと、まみちゃんが楽しそうに笑った。
「仲いいんだね」
「良くない!」
すると誠さんは、どこか面白がるように笑う。
「いや、俺、神崎さんの大学の友達第一号だし」
「……それは、そうですけど……」
理緒は納得いかない顔で誠さんを睨む。
けれど誠さんは気にした様子もなく、カレーを食べながら続けた。
「あと、俺、神崎さんの兄貴の友達なんだ」
「さっき、りっちゃんから聞きました」
「うん」
やがて食べ終えた誠さんは、水を飲み干して「ごちそうさま」と呟いた。
そのまま千円札をテーブルへ置く。
「友達と団欒してるとこ邪魔して悪かったな」
そして、まみちゃんへ視線を向ける。
「岸田さん、テスターの件よろしく」
それだけ言うと、誠さんはあっさり席を立って店を出ていった。
静かになった席で、まみちゃんが感心したように口を開く。
「りっちゃん、アプリ開発なんてやってるんだ。すごいね」
「だから、違うってば!」
「ふふっ」
まみちゃんは楽しそうに笑う。
「なんか、しゃべり方も昔に戻ったね」
「え……そう?」
「うん。いいと思う」
理緒は少しだけ戸惑いながら、手元のグラスを見つめた。
「……そうかな」
---
その日の深夜。
誠のスマホに着信が入る。
――誰だ?
画面を見ると、そこには「神崎達也」の文字が表示されていた。



