晃は、少しだけ歩く速度を落とした。
神崎の歩く速度も落ちる。
「……思いつき」
さっき自分が言った言葉を、もう一度心の中でなぞる。
違う。
それだけじゃない。
なのに、そう言い切る勇気が出なかった。
——何を怖がってんだよ、俺。
胸の奥で、何かが小さく引っかかる。
見せちゃいけないものみたいに隠してた。
――でも、もうそれも限界だ。
晃は息をひとつ吐く。
そして、歩きながら言う。
「なぁ」
神崎が少しだけ顔を向ける。
「はい」
短い返事。
その声に、また少しだけ迷う。
でも、もう迷うのはやめる。
「俺さ」
一拍。
「たぶん、思いつきじゃない」
神崎の足が、ほんのわずかに止まりかける。
でも、すぐに元の歩調に戻る。
晃は続ける。
「委員会とか、暗いとか……そういう理由もあったけどさ」
言葉を選ぶのをやめる。
「でも、それだけじゃなくって……」
沈黙。
風の音だけが間を埋める。
神崎は前を向いたまま、何も言わない。
晃は視線を逸らさずに続けた。
「……気づいたら、やってた。お前といると、そうしたくなる」
言ってから、自分でも少しだけ笑いそうになる。
何言ってんだ、って。
でも、引き返さない。
「それってさ」
少しだけ間を置く。
「俺、変か?」
神崎の指先が、ほんの少し動いた。
言葉が出るまでに、時間がかかる。
「……変じゃ、ないと思います」
小さな声。
晃は少しだけ息を吐く。
「そっか」
それだけ言って、また歩き出そうとする。
でも。
神崎が、ぽつりと続けた。
「でも……」
晃の足が止まる。
「それって……」
言葉が途中で途切れる。
神崎は視線を落とす。
少しだけ、間。
そして。
「どういう意味、なんですか」
その声は、いつもより少しだけ弱かった。
晃は、そこで初めて気づく。
ああ、ここまで来たんだ、と。
もう誤魔化せない距離にいる。
晃は、ゆっくり息を吸った。
「……特別なんだよ」
神崎の肩が、ほんの少しだけ揺れる。
「理由とか分かんねぇけど……ただ、一緒にいたくて」
言い切ってから、少しだけ沈黙が落ちる。
神崎は何も言わない。
逃げもしないし、視線も外さない。
それが逆に、晃の胸を締めつけた。
「……で」
声が少しだけ掠れる。
「お前は?」
神崎の呼吸が、一瞬だけ止まる。
「私は……」
言葉が途中で落ちる。
しばらくしてから、小さく。
「一緒にいるのが、嫌じゃないって思ってました」
視線を落とす。
「でも、それ以上説明できないです。……自分でも分からなくて……」
晃は一度だけ目を閉じて、短く笑った。
「だよな」
そして、少しだけ間を置いて続ける。
「でも……分かんないってことは、止める理由にならないよな」
神崎が顔を上げる。
晃は逃げないまま言った。
「俺はもう、誤魔化すのやめる」
一拍。
「お前は?」
夜の入り口みたいな空気に、その問いだけが落ちる。
神崎の喉が、小さく動く。
答えはまだ、形にならない。
ただひとつだけ確かなのは——
もう“何でもない帰り道”には戻れない、ということだった。
神崎の歩く速度も落ちる。
「……思いつき」
さっき自分が言った言葉を、もう一度心の中でなぞる。
違う。
それだけじゃない。
なのに、そう言い切る勇気が出なかった。
——何を怖がってんだよ、俺。
胸の奥で、何かが小さく引っかかる。
見せちゃいけないものみたいに隠してた。
――でも、もうそれも限界だ。
晃は息をひとつ吐く。
そして、歩きながら言う。
「なぁ」
神崎が少しだけ顔を向ける。
「はい」
短い返事。
その声に、また少しだけ迷う。
でも、もう迷うのはやめる。
「俺さ」
一拍。
「たぶん、思いつきじゃない」
神崎の足が、ほんのわずかに止まりかける。
でも、すぐに元の歩調に戻る。
晃は続ける。
「委員会とか、暗いとか……そういう理由もあったけどさ」
言葉を選ぶのをやめる。
「でも、それだけじゃなくって……」
沈黙。
風の音だけが間を埋める。
神崎は前を向いたまま、何も言わない。
晃は視線を逸らさずに続けた。
「……気づいたら、やってた。お前といると、そうしたくなる」
言ってから、自分でも少しだけ笑いそうになる。
何言ってんだ、って。
でも、引き返さない。
「それってさ」
少しだけ間を置く。
「俺、変か?」
神崎の指先が、ほんの少し動いた。
言葉が出るまでに、時間がかかる。
「……変じゃ、ないと思います」
小さな声。
晃は少しだけ息を吐く。
「そっか」
それだけ言って、また歩き出そうとする。
でも。
神崎が、ぽつりと続けた。
「でも……」
晃の足が止まる。
「それって……」
言葉が途中で途切れる。
神崎は視線を落とす。
少しだけ、間。
そして。
「どういう意味、なんですか」
その声は、いつもより少しだけ弱かった。
晃は、そこで初めて気づく。
ああ、ここまで来たんだ、と。
もう誤魔化せない距離にいる。
晃は、ゆっくり息を吸った。
「……特別なんだよ」
神崎の肩が、ほんの少しだけ揺れる。
「理由とか分かんねぇけど……ただ、一緒にいたくて」
言い切ってから、少しだけ沈黙が落ちる。
神崎は何も言わない。
逃げもしないし、視線も外さない。
それが逆に、晃の胸を締めつけた。
「……で」
声が少しだけ掠れる。
「お前は?」
神崎の呼吸が、一瞬だけ止まる。
「私は……」
言葉が途中で落ちる。
しばらくしてから、小さく。
「一緒にいるのが、嫌じゃないって思ってました」
視線を落とす。
「でも、それ以上説明できないです。……自分でも分からなくて……」
晃は一度だけ目を閉じて、短く笑った。
「だよな」
そして、少しだけ間を置いて続ける。
「でも……分かんないってことは、止める理由にならないよな」
神崎が顔を上げる。
晃は逃げないまま言った。
「俺はもう、誤魔化すのやめる」
一拍。
「お前は?」
夜の入り口みたいな空気に、その問いだけが落ちる。
神崎の喉が、小さく動く。
答えはまだ、形にならない。
ただひとつだけ確かなのは——
もう“何でもない帰り道”には戻れない、ということだった。



