6月。
ここ、私立凌華学園は穏やかな日々を送っていた。
国内トップの偏差値を誇り、数多の有名財閥・企業の娘・息子が通っているこの学園は、治安がいいのかといえば案外そうでもなく、「白夜」という不良集団の溜まり場として有名らしい。
そして、その平穏は突如として壊された。
「きゃあっ!」
「不良だ……!」
数十人の暴走族がバイクで校門前へ雪崩れ込んできた。
「白夜の縄張りだァ!」
「総長を引きずり出せ!」
どうやら白夜の敵対チームが襲撃しに来たらしい。
生徒たちは逃げ惑い、教師たちも動けない。
その中を、一人だけ平然と歩く少女がいた。
黒髪のロングヘア。整った制服。透き通るような美貌。
氷室 詩織。
彼女は騒ぎなど存在しないかのように本を読みながら歩いている。
「……騒音ね。」
わずかに顔を上げ周囲の様子を確認した彼女は煩わしそうに溜め息を漏らす。
そんな彼女にお構いなく暴走族の一人が怒鳴る。
「おい女ァ!避けろ!」
詩織は本から目も上げない。
「嫌よ。」
「はぁ?」
「あなた方が避ければ済む話でしょう。」
「ナメてんのか!」
男が腕を振り上げた、その瞬間――
ドゴォッ!!
男の身体が数メートル吹き飛び、壁へ激突する。
全員が振り向く。
そこには黒髪の青年が立っていた。
切れ長の鋭い目。
圧倒的な威圧感。
『白夜』総長――轟 煉夜。
「……俺の縄張りで好き勝手してんじゃねぇ。」
敵が一斉に襲い掛かる。
しかし、そんなことをものともせず、彼は悠然と立ちはだかる。
一人。
また一人。
一瞬で沈んでいく。
拳は見えない。
蹴りは読めない。
数十人いた敵が、わずか数十秒で全滅した。
静寂。
周囲は震えていた。
「やっぱり……」
「白夜の総長……。」
煉夜は倒れた敵を見下ろし、小さく息を吐く。
その眼には侮蔑とも同情ともとれる色が浮かんでいる。
その時だった。
コツ、コツ、コツ。
誰かが彼へ歩み寄る。
詩織だった。
先ほどまで読んでいた本はいつの間にか閉じられている。
部下たちは青ざめる。
(近付くな……!)
(総長に近付くなんて……!)
しかし彼女は平然と煉夜の前へ立つ。
煉夜も黙って見つめ返す。
数秒。
詩織は倒れている敵を一瞥すると、
「効率の悪い戦い方ね。」
「……あ?」
「右足の重心がブレてるわよ、単細胞。」
煉夜は目を瞬かせる。
「最後の三人。」
「わざわざ正面から殴る必要はあった?」
「左へ一歩誘導して同士討ちを誘えば、体力消費は約三割削減できたわよ。」
辺りが静まり返る。
誰も。
誰一人として。
轟煉夜の戦い方にダメ出しをした人間はいない。
詩織は続ける。
「あと。」
煉夜の肩を軽く押す。
「そこ、通路よ。邪魔だから退いてくれない?」
「……。」
ゴミを見るような目でそう吐き捨てた詩織を見て、部下たちの顔色が消える。
(終わった。)
(アイツ、総長に助けてもらった分際で……。)
(総長がキレる。)
(あの人、生きて帰れない……。)
しかし。
煉夜の頭の中では別のことが起きていた。
(なんだ、この人。俺を見ても怖がらねぇ。)
(それどころか説教してきた。)
(すげぇ。)
(……かっけぇ。)
胸が高鳴る。
人生で初めて味わう感覚。
(好きだ。)
完全に一目惚れだった。
一方、詩織はそんな心境など知る由もない。
「じゃ、さよなら」
本を閉じ、何事もなかったように歩き去る。
煉夜は思わず呼び止める。
「お、おい!」
詩織は振り返る。
「何?」
煉夜は勢いで口を開く。
「名前!」
「……。」
「名前、教えてくれ!」
詩織は淡々と答える。
「馬鹿に名乗る名前は持ち合わせてないわ。」
そう言って去っていく。
煉夜はその後ろ姿を見送りながら呆然と立ち尽くした。
部下の一人が恐る恐る近付く。
「総長……。」
「追いますか?」
煉夜は首を横に振る。
「……いや。」
「嫌われたくねぇ。」
部下たち全員が固まる。
「……はい?」
煉夜は耳まで真っ赤にしながら、小さくつぶやいた。
「……絶対、また会う。」
ここ、私立凌華学園は穏やかな日々を送っていた。
国内トップの偏差値を誇り、数多の有名財閥・企業の娘・息子が通っているこの学園は、治安がいいのかといえば案外そうでもなく、「白夜」という不良集団の溜まり場として有名らしい。
そして、その平穏は突如として壊された。
「きゃあっ!」
「不良だ……!」
数十人の暴走族がバイクで校門前へ雪崩れ込んできた。
「白夜の縄張りだァ!」
「総長を引きずり出せ!」
どうやら白夜の敵対チームが襲撃しに来たらしい。
生徒たちは逃げ惑い、教師たちも動けない。
その中を、一人だけ平然と歩く少女がいた。
黒髪のロングヘア。整った制服。透き通るような美貌。
氷室 詩織。
彼女は騒ぎなど存在しないかのように本を読みながら歩いている。
「……騒音ね。」
わずかに顔を上げ周囲の様子を確認した彼女は煩わしそうに溜め息を漏らす。
そんな彼女にお構いなく暴走族の一人が怒鳴る。
「おい女ァ!避けろ!」
詩織は本から目も上げない。
「嫌よ。」
「はぁ?」
「あなた方が避ければ済む話でしょう。」
「ナメてんのか!」
男が腕を振り上げた、その瞬間――
ドゴォッ!!
男の身体が数メートル吹き飛び、壁へ激突する。
全員が振り向く。
そこには黒髪の青年が立っていた。
切れ長の鋭い目。
圧倒的な威圧感。
『白夜』総長――轟 煉夜。
「……俺の縄張りで好き勝手してんじゃねぇ。」
敵が一斉に襲い掛かる。
しかし、そんなことをものともせず、彼は悠然と立ちはだかる。
一人。
また一人。
一瞬で沈んでいく。
拳は見えない。
蹴りは読めない。
数十人いた敵が、わずか数十秒で全滅した。
静寂。
周囲は震えていた。
「やっぱり……」
「白夜の総長……。」
煉夜は倒れた敵を見下ろし、小さく息を吐く。
その眼には侮蔑とも同情ともとれる色が浮かんでいる。
その時だった。
コツ、コツ、コツ。
誰かが彼へ歩み寄る。
詩織だった。
先ほどまで読んでいた本はいつの間にか閉じられている。
部下たちは青ざめる。
(近付くな……!)
(総長に近付くなんて……!)
しかし彼女は平然と煉夜の前へ立つ。
煉夜も黙って見つめ返す。
数秒。
詩織は倒れている敵を一瞥すると、
「効率の悪い戦い方ね。」
「……あ?」
「右足の重心がブレてるわよ、単細胞。」
煉夜は目を瞬かせる。
「最後の三人。」
「わざわざ正面から殴る必要はあった?」
「左へ一歩誘導して同士討ちを誘えば、体力消費は約三割削減できたわよ。」
辺りが静まり返る。
誰も。
誰一人として。
轟煉夜の戦い方にダメ出しをした人間はいない。
詩織は続ける。
「あと。」
煉夜の肩を軽く押す。
「そこ、通路よ。邪魔だから退いてくれない?」
「……。」
ゴミを見るような目でそう吐き捨てた詩織を見て、部下たちの顔色が消える。
(終わった。)
(アイツ、総長に助けてもらった分際で……。)
(総長がキレる。)
(あの人、生きて帰れない……。)
しかし。
煉夜の頭の中では別のことが起きていた。
(なんだ、この人。俺を見ても怖がらねぇ。)
(それどころか説教してきた。)
(すげぇ。)
(……かっけぇ。)
胸が高鳴る。
人生で初めて味わう感覚。
(好きだ。)
完全に一目惚れだった。
一方、詩織はそんな心境など知る由もない。
「じゃ、さよなら」
本を閉じ、何事もなかったように歩き去る。
煉夜は思わず呼び止める。
「お、おい!」
詩織は振り返る。
「何?」
煉夜は勢いで口を開く。
「名前!」
「……。」
「名前、教えてくれ!」
詩織は淡々と答える。
「馬鹿に名乗る名前は持ち合わせてないわ。」
そう言って去っていく。
煉夜はその後ろ姿を見送りながら呆然と立ち尽くした。
部下の一人が恐る恐る近付く。
「総長……。」
「追いますか?」
煉夜は首を横に振る。
「……いや。」
「嫌われたくねぇ。」
部下たち全員が固まる。
「……はい?」
煉夜は耳まで真っ赤にしながら、小さくつぶやいた。
「……絶対、また会う。」
