台本通りの恋はしない!―仕組まれた恋リアで、本気で恋しちゃダメですか?―

8月30日。月曜日。
10:00。

ミーンミーンと、けたたましい蝉の声は都会の喧騒も突き破ってくる。
ろくに冷房も効かないオンボロ事務所のオンボロソファで、私はだらりと腑抜けてそこに溶けている。


「シャキッとしろ瑠奈ァ!だらけてる暇あったらオーディションの一つでも受けて、仕事とってこい!」


少し離れた社長のデスクから、社長の怒号が飛んでくる。
けれども私はそれを右から左へと聞き流して、ぼうっとブラインドの隙間から空を眺めていた。


――昨日、私の緊急配信が公開された。


アオバケの仲間たちは、爽真は、あれを見たのだろうか?


(というか急にいなくなっちゃったから、びっくりさせたよね)


一昨日、爽真と最後の深夜を迎える前。
巻さんと電話で連絡を取って、この提案を持ちかけた。

巻さんはネットの憶測なんて、無視するつもりだったみたいだけど――……
無視できない、公式でやらないなら勝手にやると言ったらそこまで言うならと渋々了承してくれた。

ついでに台本は救ったわけだし、私の評価が下がるようなことは業界内で言わないでと頼んだけど――
それは“本当に君って奴は”と苦笑いされた。

まぁでも、言わないって信じよう。
働きは認めてもらえたし。一個パイプができたと強気に思い込むことにする。

ごろんとソファで寝返りを打つかのように体勢を変える。


“3日後”


ふっと、破る気だったくせに了承した爽真との約束が浮かんでしまった。

(あ――――だめだ。気を抜くとすぐ思い出すんだから、もう!)

天井を仰いで両手で顔を覆う。


傷つけたかな?傷つけたよね。
私がいなくなったことに気付いた時の爽真のことを想像すると、胸が張り裂けそうなほど痛い。

約束破りの最低女だって、いっそ嫌っていてほしい。


(……もう忘れよう。仕事仕事!)

緩く握った拳で額を叩いて、雑念を追い払う。

もうやっちゃったし、私は私なりの信念を持ってやったことなんだから。

どの道、撮影が終わればそれきりになるはずの関係だった。

それがほんの少し、たった数日早まっただけ。

反動をつけてソファから立ち上がって、大きく息を吸い込む。

「御手洗!オーディションの募集要項!」
「人を顎で使わないでください」

差し出した手に渡された紙の束に、張り切って目を通した。