「あ。やっぱ変?これじゃ“瑠奈”ってわからなすぎ?
どうしよ、メイクだけでももう少し寄せたほうがよかったかな……」
「いや、可愛いけど。
……俺が聞きたいのは、なんでその格好なのってこと」
「……」
にこり。何となく微笑んでお茶を濁す。
紫苑が自分の予想に確信を持ったように、小さく眉を寄せた。
「やめときなよ、香月さん」
……やっぱり紫苑には読まれちゃうか。
紫苑と私は盤面を見る高さや考え方が似てる。
だからこの状況を見て私が何をしようとしているのかバレてしまうのは、予測済みだ。
「やめないよー。私、一度やるって決めたら絶対曲げないの」
「じゃあ、俺との協定も果たしてよ。
俺に振られるまで、ちゃんとやりきって」
「……」
さすが紫苑。屁理屈じゃ勝てない。
紫苑の顔にはいつもの余裕そうな笑顔はなくて、どこか必死な真剣さを感じるから、茶化して誤魔化すこともできない。
「……それは、ごめん。でも番組を守るって意味では、ある意味これも協定の範囲内だから――」
「そんな自己犠牲、爽真は喜ばないよ」
思いがけない名前が胸に刺さる。
それは、私が1番弱ってしまう言葉だ。
「……いいんだよ。爽真のためにやってないから。
これは私の自己満足。私がしたいからやるの」
目を逸らさずにいる私に、紫苑の言葉が止まる。
何を言っても無駄なのだと悟ったのか、蜂蜜色の瞳に諦観が浮かんだ。
「あのさ、紫苑。ありがとう。
私の自己満足な正義感に付き合って、ここまで協力してくれて」
海をバックに、後ろ手を組んで笑いかける。
紫苑がついに打ちのめされたみたいな顔になって、黙って――それから笑顔を取り繕った。
「まるでお別れみたいな言い方、やめてくれる?」
「お別れだもん。わかってるでしょ?」
「そんな簡単に……ハッキリ言わないでよ」
深い波の音に、紫苑の喉が鳴る音が隠れる。
咄嗟に手の甲で口元を隠した紫苑が、素早く海の方に首を捻った。



