ぴたり。私の動きが止まる。
私の反応を窺うように見ていた紫苑の目が、何かに勘づいたように細くなった。
「香月さんはあの考察、どう思った?」
ドクドクと、気まずさに胸の鼓動が強くなる。
すごく私的なことを思った、なんて、口が裂けても言えない。
「どうって――別に、」
「協定。いまさら反故にしたりしないよね?」
「そんなことするわけ――」
ない。
と、言いたいけど、昨日の私はそれを言い切れなかった。
だから、紫苑を見られなくて目を逸らす。
紫苑の眉が苦しそうに歪んで、声に必死さが混ざった。
「こっち見て、香月さん。
昼は視線を全部くれる。そういう契約でしょ?」
「それは――……!」
「契約って何?」
ドアが開く音と同時、飛び込んできた爽真の声に凍りつく。
いつのまにか開け放たれていたドア口には、スポーツドリンクを持った爽真が感情を纏めきれていない顔で立っている。
まずい、弁解しなくちゃ。
血の気の引いた頭が、焦って立てと命令する。
「爽真……っこれは――!」
だから跳ねるように立ち上がった瞬間――
ぐらり。
視界が歪んで、膝が崩れた。
「瑠奈ちゃん!?」
驚く紫苑の声と、ペットボトルを床に叩きつけたような鈍い音。
意識を手放す前に感じたのは――
誰かの腕に抱き止められた感覚と、飾らない石鹸の香りだった。



