この状況、恋心に惑わされている場合ではない。
今日の撮影は、まるで生の舞台。
360度観客のいる、円形ステージのようだ。
最初に来店した、紫苑ファンのお客さんグループにいち早く駆け寄る。
「いらっしゃいませ♡
2名さま、紫苑くんのファンですかっ?」
3人は昨日、ホールの仕事をやってない。
ならば私が場を回さなくちゃ。
――そして、舞台のカチンコも鳴らしてやる。
「あ……はい……」
画面から飛び出してきたかのようにぐっと距離を詰める私に、紫苑ファンの女子2人はほんの少したじろいでいる。
だから、目一杯広げた手を口元にあてがって、無邪気に悪どい笑顔を作った。
「奇遇ですねっ♡瑠奈も紫苑くん推しなんですっ♡」
わかりやすい煽りに凍りついたお客さんを、澄まし顔でご案内。
口の中だけで笑いを漏らした紫苑も動き出して、それに釣られてちょっと焦る美玲も伝票を手にする。
怪訝そうに私を見ていた爽真も、何かに呆れて“仕方ない”とでも言いたげに息を吐いて、店内に入ってくるお客さんの元へと歩き出す。
清純ヒロインを取り巻く2人のイケメンの恋愛バトルと、悪女の略奪恋愛劇。
それぞれの心は置き去りにして、文字通り死角なしの舞台上で――
“自分”を演じる、恋リア劇場が幕を開けた。



