*おまけの小話*
Side.紫苑
7:00。
香ばしいバターと、コーヒーの匂いが立ち込めるリビングに、伸びをしながらゆっくりと降り立つ。
「おはよ、紫苑」
「おはよう、紫苑くん」
もうダイニングテーブルに着いている大和と美玲ちゃんが、振り返って挨拶をしてくる。
その奥の、キッチンには爽真と――瑠奈ちゃん。
(ああ、そっか。今週は2人が朝食当番か)
なんて、今日も甘ったるく笑っている瑠奈ちゃんを見ながらぼんやり思った。
(どこ座ろ。……ま、美玲ちゃんの近くを押さえるべきとこなんだけど)
ソファに投げてあるリモコンでニュースをつけてから、ゆるゆるとダイニングテーブルに向かう。
ニュースをつけたのは、星占いを流すため。
一回ついた嘘設定は、ちゃんと守らないとボロが出るからね。
ダイニングテーブルに到達して、何気なくテーブルの上を見る。
ホテルかよって思うくらい、整った朝食プレートがずらりと並んでいる。
ちょっと感心していたのに――
美玲ちゃんの隣、角に置かれた一枚だけ。
プレートの上が凄惨な殺人現場になっていた。
真っ赤なスクランブルエッグ。
垂れたケチャップがトーストにもサラダにも侵攻してる。
その散々たる光景に思わず言葉を失った。
(――これやったの、絶対瑠奈ちゃんじゃん。
あんな華奢な見た目してるのに、なんで料理だけ常にパワー系なの)
「っふ、」
思わず素の笑いが漏れる。
(ホント面白い。……可愛い)
そばにいた美玲ちゃんが、きょとんとして俺を見上げた。
「……紫苑くん、そこ、座るの……?」
殺人現場を選んだ俺に、ちょっと信じられないって顔をしている。
「うん、美玲ちゃんの隣がいいから」
――なんて、理由だけはそれらしくして。
「もういい、お前は手出しするな」
「爽真くんのいじわるっ!瑠奈だってやればできるもんっ」
キッチンの向こう側で繰り広げられる、嘘の顔をした本気の戯れ合いに、心がざらつく。
まぁいいよ。
夜中までは、ちゃんと我慢して譲ってあげる。



