♡
「――この手の数式はさ、いきなり三乗の計算しようとすると沼るじゃん?だから、まず与えられてる前提を使って――……」
「ふんふん」
節っぽいのに華奢な紫苑の指が指し示す数式の下の空白に、シャーペンを走らせる。
「……で、ここでこの公式を使う」
「なるほどぉー。これを二乗するとぉ、
……こうなるってことね♡」
「そうそう。合ってる。
で、求めたいものに戻るんだけど……」
サラサラと私のシャーペンが動く音だけが、妙に静かなリビングに響く。
ダイニングテーブルの中心で、身を乗り出し合っている私と紫苑を、周りは異様な目で見ていた。
「……何語を話してるのかもわからないんだけど」
ぽそ、と向かいの大和にあやかが耳打ちする。
「安心して。とりあえず、多分日本語」
……と、大和。
「さっき聞いた2人の高校。どっちも偏差値めちゃくちゃ高いとこでしたよね……」
「な。紫苑さんは例外として、頭いい奴は変人ってガチなんだな……」
ヒソヒソと身を寄せ合いながら、丸聞こえの噂話をするひよりと陸。
「……」
ずっとノートに目を落としたまま、爽真は一言も喋らない。
シャーペンの芯が折れたのにも気付かず、ノートにペン先を突き立てている。
「――……」
美玲は一応私と紫苑の距離感を気にしている風な顔をしている。
けれど、爽真のヒリつく冷たさを察知してか、気まずそうにその目は泳いでいた。



