(……いつのまに!?)
びっくりして思わず固まる。
私を見下ろす紫苑は、甘く双眸を細めて柔らかく微笑んでいる。
セットもまだの蜂蜜色の前髪は、その表情をカメラから覆い隠していた。
「……おはよっ♡紫苑くん」
内心驚きの余韻が引かないまま、嬉しそうに笑って見せる。
隠しきれなかった“なんで?”が私の顔に書かれているのを察した紫苑が、ちょっと挑発的な顔になった。
「言ったでしょ?“本気になっちゃった”って」
その声は、テレビの音とキッチンからの楽しそうな声に掻き消される。
私にしか聞こえない囁きに、ドクンと胸が強く跳ねた。
――そういえば、そうだった!
花火大会での紫苑の、あの不可解な行動のこと、すっかり忘れていた。
“本気”なんて真っ赤な嘘。
紫苑の目的は、きっと私の動揺。
表と裏の境界を溶かして揺さぶるつもりなら、ここはすっとぼけるが吉。
「……ちょっとよく聞こえなかったなぁ。ごめんね?」
同じように、周りに聞こえない小声で返す。
「ん?もっと近くで言おうか?」
ぐん、と紫苑との顔同士の距離が一気に詰まる――ようなフェイントをかけてくる。
思わず肩が反応して、ピクンと跳ねた。



